遠藤くんは、本当に、私にだけ無反応で、一言も口をきいてくれなかった。


担任の秋田先生が教室に入ってきて、遠藤くんを驚いたように見て『なんだ、来てたのか』と言ったときも、彼は声こそ出さなかったものの小さく頷いていた。

遠藤くんに興味をもった何人かが声をかけたときも、彼は迷惑そうに眉根を寄せながらも、多少は反応していた。


それなのに、私が話しかけたときだけは、ちらりと目を向けてくれればいいほうで、不機嫌そうに顔をしかめて外を眺めているばかり。


教科書のページや、どの問題集を使うかを教えてあげようと、何回か名前を呼んではみたものの、彼は最後まで一度も反応してくれなかった。


なけなしの勇気をふりしぼって話しかけてみた私は、完全に打ちのめされ、立ち直れないくらいにうちひしがれてしまった。



遠藤くんは、どうしてあんなに頑なに私を拒絶するんだろうか。


考えているうちに、また自然と指が動き出して、鍵盤の上を駆け回りはじめた。