◇
ゴーヤチャンプルーを、おじさんは32歳にしてはじめて食べたらしい。
思ったより苦くなかった。なんて小学生みたいな感想を言いながら、おじさんはあたしにココアを手渡した。夕食後のココア。おじさん特製の、薄いココア。
胸がぎゅっとした。気持ちを抑えるみたいにマグカップを抱えこむと、おじさんは「熱くねえの」と笑った。その横顔を見てまた気持ちがあふれそうになる。
ああ、手放したくない。
この平和な、幸せな毎日を、終わらせたくない。
「……和志さん」
名前を呼ぶだけで泣きそうだよ。
「あたし、おかーさんと暮らそうと思う。あの一軒家で、また、暮らそうと思う」
そうか、と、おじさんは言った。静かで落ち着いた声だった。彼は、まるであたしがこう言うのをわかっていたみたいな顔をしていた。
「おかーさん、けっこうさみしがりやなんだよ。あたしと似ててさ」
「そうだな。似た者親子だよ、おまえら」
「和志さん」
「なんだよ」
「和志さん……」
でも、おじさんがひとりだってこと、あたしは知ってる。よもぎはいるけど、それでもずっとひとりぼっちなんだってこと、知ってるよ。知ってしまったんだよ。
おかーさんと暮らすということは、この男をまたひとりにするということ。
とても言葉にならなかった。苦しくて、痛くて、こらえきれずにとうとう涙が出た。
ゴーヤチャンプルーを、おじさんは32歳にしてはじめて食べたらしい。
思ったより苦くなかった。なんて小学生みたいな感想を言いながら、おじさんはあたしにココアを手渡した。夕食後のココア。おじさん特製の、薄いココア。
胸がぎゅっとした。気持ちを抑えるみたいにマグカップを抱えこむと、おじさんは「熱くねえの」と笑った。その横顔を見てまた気持ちがあふれそうになる。
ああ、手放したくない。
この平和な、幸せな毎日を、終わらせたくない。
「……和志さん」
名前を呼ぶだけで泣きそうだよ。
「あたし、おかーさんと暮らそうと思う。あの一軒家で、また、暮らそうと思う」
そうか、と、おじさんは言った。静かで落ち着いた声だった。彼は、まるであたしがこう言うのをわかっていたみたいな顔をしていた。
「おかーさん、けっこうさみしがりやなんだよ。あたしと似ててさ」
「そうだな。似た者親子だよ、おまえら」
「和志さん」
「なんだよ」
「和志さん……」
でも、おじさんがひとりだってこと、あたしは知ってる。よもぎはいるけど、それでもずっとひとりぼっちなんだってこと、知ってるよ。知ってしまったんだよ。
おかーさんと暮らすということは、この男をまたひとりにするということ。
とても言葉にならなかった。苦しくて、痛くて、こらえきれずにとうとう涙が出た。