ゴーヤチャンプルーを、おじさんは32歳にしてはじめて食べたらしい。

思ったより苦くなかった。なんて小学生みたいな感想を言いながら、おじさんはあたしにココアを手渡した。夕食後のココア。おじさん特製の、薄いココア。

胸がぎゅっとした。気持ちを抑えるみたいにマグカップを抱えこむと、おじさんは「熱くねえの」と笑った。その横顔を見てまた気持ちがあふれそうになる。


ああ、手放したくない。

この平和な、幸せな毎日を、終わらせたくない。


「……和志さん」


名前を呼ぶだけで泣きそうだよ。


「あたし、おかーさんと暮らそうと思う。あの一軒家で、また、暮らそうと思う」


そうか、と、おじさんは言った。静かで落ち着いた声だった。彼は、まるであたしがこう言うのをわかっていたみたいな顔をしていた。


「おかーさん、けっこうさみしがりやなんだよ。あたしと似ててさ」

「そうだな。似た者親子だよ、おまえら」

「和志さん」

「なんだよ」

「和志さん……」


でも、おじさんがひとりだってこと、あたしは知ってる。よもぎはいるけど、それでもずっとひとりぼっちなんだってこと、知ってるよ。知ってしまったんだよ。

おかーさんと暮らすということは、この男をまたひとりにするということ。

とても言葉にならなかった。苦しくて、痛くて、こらえきれずにとうとう涙が出た。