面談は驚くほどあっさり終わった。米田と校長に「いっしょにがんばろう」って言われたけど、なにも答えられなくて、まだまだだなって思う。

さっきと同様、大人たちがまた形式ばった挨拶をしあう。おじさんとおかーさんに連れられて駐車場に戻るとき、米田と校長もついてきてくれた。野球部の練習がいつの間にか終わっている。かわりに、グラウンドにはサッカー部がいた。



「祈、よく決めたね」


教師ふたりがいなくなったあと、おかーさんが言った。すごく力のある言い方だった。


「エライよ」


夏っぽい、青と白のネイルに変わっているおかーさんの指先が、ぐしゃりとあたしの髪を撫でる。30センチ先にあるきれいな顔は同じ目線にあって、いつの間にか身長が追いついていたってことを知る。


「フツウ、だよ」


なんにもエラくなんかない。


「でも祈、自分で決めたじゃん。それってスゴイことだよ。うちの娘はやっぱりかっこいいなって思っちゃったもんね」


かっこ悪いよ。あたし、自分のこと大嫌いだよ。嫌になるほど子どもで、逃げてばかりの、弱虫の泣き虫だから。

それでも、学校に行くことを決めた自分のことは好きだと思った。久しぶりにこんな気持ちになった。誇らしいような、恥ずかしいような、くすぐったい感じ。自分で自分を抱きしめたいような感じ。


「祈は私の自慢だよ。たからもの」


こんなにあたしを愛し、認めて、理解してくれるひとは、きっとほかにいないね。

ありがとう。産んでくれて、ありがとう。育ててくれて、ありがとう。いつも、まるごと愛してくれて、ありがとう。

おかーさん、あたしも、おかーさんを守りたいって思ったんだ。だから学校に行こうって思ったんだ。


恩返しとかそういうんじゃない。おかーさんのこと大好きだからそう思うだけ。自慢のおかーさんに、自慢の娘だって思っていてほしいだけ。


「祈のこと見てたら、おかーさんもがんばらないとって思ったよ」


家族っていいな。すごいものだ。換えのきかない、かけがえのないものだ。

離れて暮らしてみてはじめて実感できたことだよ。こういうとこ、やっぱり人間は欠陥だらけだって思う。