「本当は会議室とかのほうがよかったんだろうけど、さすがに落ち着かないかなと思って」


米田は困ったように笑ってそう言ったけど、べつにどこだろうと落ち着かないよ。たとえばおじさんちで面談することになっていたとしても、たぶんこんなふうにすごく居心地は悪かった。


「来てくれてありがとう」


大人たちが形式ばったやり取りをしたあと、米田がとても優しい口調で言った。あたしは答えないかわりに小さく首を縦に振った。


「なにか、学校で嫌なことがあったわけではないんだよな?」


あんまりにも単刀直入だったから、思わず言葉に詰まってしまったよ。


「……ない、です。べつに」

「そうか、よかった」


米田が心底ほっとしたような顔をする。校長も隣で同じ顔をしていた。


いじめとか、自殺とか、社会問題だし、学校としてもやっぱり気がかりだったんだろう。あたしは友達もそんなに多いほうじゃないし、家庭環境のこともあるから、そういうのがなきにしもあらずって感じだったんだと思う。

うちの学校でも、しょうもないいじめとか、起こっていたりするのかな。あるのかもしれない。あたしの知らないところで、同じ制服を着た誰かが苦しんでいるのかもしれない。

どうしてそんなことが起こるんだろうね?

学校っていう檻に閉じこめられて、ストレスフルになって、そういうことをしちゃうんだろうか。

わかんないな。そうまでして学校に通う意味が、あたしにはわかんないや。加害者も、被害者も、だったらやめちゃえばいいのにな、学校。


「夏休みが明けたらすぐ、文化祭と体育祭があるし、11月には修学旅行もあるよ」


米田が言った。


「クラスみんな、中澤のこと待ってるよ。いっしょに思い出つくりたいって」


背中がぞわりとした。