「もう一度確認しますが、堕胎でいいんですね?」


手術前に医者はあたしに確認した。

「はい」

あたしはうなずいた。



ごめんね・・・

そう思うのが正しいんだろうな。

母性があるならそう思うんだろうな・・・


あたしの今の気持ちは母性よりも「人を1人殺す」という思い。


お腹に手を当てた。

まだ、ちゃんと人間にはなれていないけど、確実に「命」はそこにいる。



「罪は、ちゃんと償うから。許してくれなくてもいいから」


今日、あたしは人殺しになる。



人の命は脆くて弱くて、それでいて尊いものだって事はわかっている。


ヒロが死んだ時、あたしは苦しかった。辛かった。
何で何の前触れもなく突然命を奪うんだって。
そんな権利神様にもあるのかって、ずーっと思ってた。
憎たらしかった。


でも、あたしはまだ自分の感情さえも出せない命を自分の都合で殺そうとしている。


(あたしのしてる事って矛盾じゃん)


あたしは神様でも何でもないのに、殺すんだから。
この子の寿命はあたしの都合で決まってしまう。

許してくれなくていい。
呪いたいなら呪ってくれていい。
その方があたしは救われる。
人殺しだって認めたら、あたしが罪の重さを実感したら、いつか裁きがきたら、あたしは救われるの。


「準備はいいですか?」

医者の声が聞こえて我に返った。

我に返ったあたしの目から気づかないうちに涙がこぼれていた。