北面の契り




 賭弓から数日後、朝隆は実家から使いの者を受けた。
 父からの文には、思いがけない一文があった。


【――然るべき縁組の話あり。近く相手方と対面の場を設くべし。】


 相手は、朝隆の家よりも家格の高い貴族の娘だという。長兄が既に家督を継いでいる以上、朝隆自身に婿入りの話が来ること自体は珍しくない。

 むしろ、家のために好都合な縁だと父の文には暗に記されていた。
 その夜、詰所で文を読み返す朝隆の顔色に輔道が気づかぬはずもなかった。


「浮かぬ顔だな」

「……縁談です。父が、勝手に話を進めているようで」


 言ってしまってから、朝隆は自分でも驚いた。輔道にこうした私事を打ち明けたのは、初めてのことだった。輔道はしばらく黙っていたが、やがて短く言った。


「お前の家のことだ。俺が口を挟む筋合いはない」


 その素っ気なさが、いつもとは違う硬さを帯びていることに、朝隆は気づいた。


「……不服そうですね」

「そんなことはない」

「顔に出ています」


 輔道は舌打ちに似た息を吐き、ようやく本音らしきものを漏らした。


「お前がどこぞの家に婿入りすれば、北面を退くことになるだろう。……それだけの話だ」


 それだけ、と言いながら、輔道の声にはわずかな翳りがあった。朝隆はその翳りの正体に、うっすらと気づき始めていた。

 自分自身の胸の内に巣食う、同じ形をした翳りと。