秋も深まったころ、院の御前で賭弓が催されることになった。北面の武者たちが技を競い、上皇の御覧に入れる晴れの場である。
「輔道殿の出番だな」
「今年も一番手は輔道殿で決まりだろう」
詰所ではそんな声が飛び交っていた。輔道の実力は北面の中でも群を抜いており、誰もが疑わなかった。
朝隆もまた、遠くからその晴れ舞台を見届けるつもりだった。だが当日、番割りを見た朝隆は思わず息を呑んだ。自分の名が、末席ながら射手の中に記されていたのだ。
「……なぜ、私が」
「上から回ってきた話だ。人数が足りんかったんだろう」
輔道は素っ気なく答えたが、その目にはわずかな気遣いの色があった。
「私では、恥をかくだけです」
「かくかどうかは、やってみなけりゃ分からん」
輔道はそう言うと、珍しく朝隆の肩に手を置いた。
「今日までお前が何をしてきたか、俺は見てきた。人並みの腕はある。あとは、外すことを恐れずに引くだけだ」
その言葉に、朝隆の中で何かが定まった気がした。
当日、院の御前には多くの公卿たちが居並んだ。朝隆の番が回ってくると、周囲からは値踏みするような視線が注がれる。貴族の子弟でありながら北面に降った男が、どれほどの腕を見せるのか――そういう好奇の目だった。
朝隆は弓を構え、静かに息を整えた。輔道の言葉を思い出す。外すことを恐れずに。
矢は放たれ、的の端をわずかに捉えた。見事な的中とは言い難かったが、無様な失態でもなかった。
控えめな拍手が起こる中、朝隆は詰所の隅に立つ輔道と目が合った。輔道はただ、小さく頷いただけだった。
それだけのことが、どんな賛辞よりも朝隆の胸を満たした。
そして輔道の番になると、その腕前は本領を発揮した。放たれる矢はことごとく的の中心を捉え、御前に居並ぶ公卿たちからどよめきが上がる。白河院自らが「見事」と声をかけたほどだった。

