約束から幾日か過ぎたある夜、宿直の番が重なった。詰所に人影はまばらで、遠くから虫の音だけが聞こえてくる。
「……今宵は、随分と静かですね」
朝隆が呟くと、壁にもたれていた輔道が薄く目を開けた。
「静かな晩に笛を聞かせろと言ったはずだが」
覚えていたのか、と朝隆は内心で驚いた。世辞や社交辞令ではなかったらしい。
「本気だったのですか?」
「噓は言わん主義だ」
そう言われれば、断る理由もなかった。朝隆は懐から携えていた横笛を取り出し、月明かりの差す縁近くに座った。
息を整え、静かに吹き始める。
澄んだ音色が、詰所の闇に染み渡っていく。荒々しい武者たちの控所には不釣り合いなほど、優雅な調べだった。輔道は何も言わず、ただじっと聞き入っていた。

