北面の契り




 白河院が新たに設けたその詰所は内裏の北の隅、日の当たらぬ場所にあった。

 北面と呼ばれるようになったのは、ただ単に御所の北側に控える武者たちの控所だったからに過ぎない。だが朝隆には、その名がどこか自分たちの身の上を言い当てているように思えてならなかった。



「――藤原朝隆でございます」


 名乗りながら、朝隆は詰所に並んだ顔ぶれを一瞥した。狩衣の下に鍛えた体が透けて見えるような、荒々しい男たちばかりだった。歌会や蹴鞠の席とは明らかに違う、殺気に似た緊張が満ちている。

 その中でも、一際目を引く男がいた。

 背が高く、肩幅が広い。焼けた肌に、刀傷とおぼしき薄い線が頬に一本走っている。名乗りを聞いても表情ひとつ変えず、値踏みするような視線だけをこちらに寄越した。


「伴輔道だ」


 短く、それだけだった。
 朝隆は面食らった。貴族の子弟同士なら、初対面でもそれなりの言葉遣いと駆け引きがある。

 だがこの男には、そうした前置きが一切ない。


「――随分と、素っ気ないお名乗りですね」


 思わず口をついて出た皮肉に、輔道はわずかに片眉を上げた。


「宮仕えの挨拶は貴族の流儀でやってくれ。俺たちは戦場の流儀しか知らん」

「ここは戦場ではありませんが」

「今はな」


 それだけ言うと、輔道は興味を失ったように視線を外し、弓の手入れを始めた。指の太い、傷だらけの手だった。朝隆は、自分の白く滑らかな手を思わず袖の下に隠した。