眠り姫にはアラーム係の声しか届かない

 少し冷たい空気がふわりと頰を撫でる。頭上では銀杏がカサカサと音を立てて揺れていた。
「もうすっかり秋だね〜」
「そうですね」
 銀杏の木の根元に座り、僕と後輩くんは一緒にお昼ご飯を食べていた。僕は朝お母さんが作ってくれたお弁当、後輩くんは購買で買ったであろう焼きそばパンだ。

「……ずっと気になってたんだけどね」
「なんですか?」
「焼きそばパンとミルクティーって、合うの?」
 焼きそばパンを口に入れたあとパックのミルクティーを飲む後輩くんにそっと尋ねる。

 そう、後輩くんが焼きそばパンを食べる時のお供は必ずミルクティーなのだ。僕は焼きそばパンとミルクティーを一緒に食べたことがないので、果たしてその二つが合うのか想像もできない。

「普通に合いますよ、食べてみます?」
 後輩くんが食べかけの焼きそばパンとパックのストローをこちらに向けてくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「え」
 少し身を乗り出し、向けられた焼きそばパンにかぶりつく。うん、安定に美味しい。そのまま隣のストローにジューッと吸い付くと、まろやかな風味が口いっぱいに広がった。なるほど、これはたしかに合う。
 そもそも『焼きそば』という部分に引っ張られていただけで、パンとミルクティーが合わないはずがなかった。

「ん、美味しいね」
「…………」
 何も言わない後輩くんに不思議に思い顔を上げると、彼は口をポカンと開けてこちらを凝視していた。  

「……あ、ごめん。嫌だった?」
 もしかしたらあれは冗談だったのかもしれない。確かに、後輩くんは誰かと食べ物をシェアしたりするタイプではなさそうだ。
 やってしまったかと様子を伺ったが、後輩くんはゆっくりと首を横に振った。

「いや、嫌じゃないんですけど、嫌じゃなさすぎるというか……」
「どういうこと?」
「……なんでもないです」

 後輩くんはそう小さく呟き数秒間ジーッと焼きそばパンと見つめ合うと、意を決したようにガブッと口に入れる。
 それを見て本当に嫌ではなかったんだと安心した僕は、再び自分の弁当に箸をつけた。