一学期の終業式が終わった。
ようやく夏休みだと、学校中に浮ついた空気が漂っている。もちろんそれは僕も例外ではない。
(ようやく、時間を気にせずぐっすり眠れる〜!)
学校がないということはそれすなわち、昼まで寝てても怒られないということだ。なんと素晴らしい……!
ルンルンと心軽やかな気持ちで帰ろうとしたその時、なんだか門の前が異様にざわついていることに気づいた。芸能人が来ているのかと思うほど人が——主に女子生徒が集まっている。
(なにかあるのかな?)
興味本位で近づいてみると、その中心にいたのはなんと後輩くんだった。
「来栖くん、夏休み予定ある?」
「よかったら私と——」
「いやいや私と!」
「あ、えっと……」
大量の女子生徒の中心で、後輩くんは困惑したように固まっていた。
後輩くんは顔が良い。
基本人の顔に全く興味がない僕でも、初めて見たときはあまりのイケメンぶりに思わず感心したものだ。
噂では、後輩くんのファンクラブがあるとかないとか……。
そんなイケメンこと後輩くんは、もちろん女子生徒からの人気も厚い。しかし高嶺の花的存在なのか、普段は話しかけられているところをほとんど見たことがなかった。それでも夏休み前ということで、勇気を出した生徒が大勢いたのだろう。
やれ「連絡交換」やら「夏祭り」やら「海」やら「宿題」やら、さまざまな単語が飛び交い混じり、ほとんど言葉になっていなかった。もう誰が何を言っているのかわからない状態だ。
(――この中の誰かと、夏休み遊んだりするのかな)
そう思うと、なぜか胸がズキリと痛んだ。
周りに集まる女子生徒は可愛い子も多かった。後輩くんだって思春期の男子高校生だ、夏休みに可愛い子と遊んだりしたいだろう。というか、するだろう。
後輩くんが誰と会おうが遊ぼうが僕には関係なくて、後輩くんの自由だというのに。
(後輩くん、取られちゃう……)
なぜかそんなことを、思ってしまった。
僕ではない他の誰かと楽しそうに遊んでいる後輩くんを想像して、心の中に真っ黒なモヤがかかっていく。だんだんそれは大きくなって、ズンと重くなった。
だからだろうか、
「今度はなんですか——って、先輩!?」
「あ、え……?」
気づいたら僕は人だかりの中をくぐり抜け、後輩くんの腕を掴んで引っ張っていた。
周りから「眠り姫!?」という驚きの声が聞こえた気がした。けれど僕は自分の行動に一番驚いていて、周りの音がまるで透明な壁に隔たれているようにボヤッとしか聞こえなかった。
「先輩、どうしたんですか?」
後輩くんが不思議そうに聞いてくる。
透明な壁を突き抜けて、後輩くんの声が僕の鼓膜を震わせた。やっぱり後輩くんの声は安心する。どんな時でも、なぜか後輩くんの声だけは鮮明に聞こえるのだ。
「どうした……? えっと、その……」
どうした――どうしたんだろう。自分でもわからない。完全に無意識の行動だった。
(どうしよう。でも、ここでなにも言わないのはおかしいし……)
「一緒に、帰らない……?」
色々考えた末に、ポロっと口から言葉が飛び出す。後輩くんの大きくて見開かれた目を見て僕は自分の発言に気づき、思わずパッと自分の口を両手で塞いだ。
「あ、いやその——」
「はい、帰りましょう」
後輩くんが僕の目を見つめて柔らかく微笑んだ。驚いて口元から少し離れた僕の手を、優しく両手で包み込む。その表情に目を奪われていると、後輩くんが急に顔を上げて周りを見渡した。
「すみません、俺今から先輩と帰るんで。また始業式に」
よく通るその声が、甲高い声をかき消すように辺り一面に響いた。後輩くんの言葉を聞いて、群がっていた女子生徒が諦めた様子でまばらに散ってゆく。
その光景を見て、後輩くんの言葉を聞いて、僕の胸を占めていた黒いモヤがスーッとなくなっていくのを感じた。
「先輩、行きましょうか」
「……うん」
何事もなかったかのように駐輪場へ歩き出す後輩くんの後を慌てて追いかけた。
ようやく夏休みだと、学校中に浮ついた空気が漂っている。もちろんそれは僕も例外ではない。
(ようやく、時間を気にせずぐっすり眠れる〜!)
学校がないということはそれすなわち、昼まで寝てても怒られないということだ。なんと素晴らしい……!
ルンルンと心軽やかな気持ちで帰ろうとしたその時、なんだか門の前が異様にざわついていることに気づいた。芸能人が来ているのかと思うほど人が——主に女子生徒が集まっている。
(なにかあるのかな?)
興味本位で近づいてみると、その中心にいたのはなんと後輩くんだった。
「来栖くん、夏休み予定ある?」
「よかったら私と——」
「いやいや私と!」
「あ、えっと……」
大量の女子生徒の中心で、後輩くんは困惑したように固まっていた。
後輩くんは顔が良い。
基本人の顔に全く興味がない僕でも、初めて見たときはあまりのイケメンぶりに思わず感心したものだ。
噂では、後輩くんのファンクラブがあるとかないとか……。
そんなイケメンこと後輩くんは、もちろん女子生徒からの人気も厚い。しかし高嶺の花的存在なのか、普段は話しかけられているところをほとんど見たことがなかった。それでも夏休み前ということで、勇気を出した生徒が大勢いたのだろう。
やれ「連絡交換」やら「夏祭り」やら「海」やら「宿題」やら、さまざまな単語が飛び交い混じり、ほとんど言葉になっていなかった。もう誰が何を言っているのかわからない状態だ。
(――この中の誰かと、夏休み遊んだりするのかな)
そう思うと、なぜか胸がズキリと痛んだ。
周りに集まる女子生徒は可愛い子も多かった。後輩くんだって思春期の男子高校生だ、夏休みに可愛い子と遊んだりしたいだろう。というか、するだろう。
後輩くんが誰と会おうが遊ぼうが僕には関係なくて、後輩くんの自由だというのに。
(後輩くん、取られちゃう……)
なぜかそんなことを、思ってしまった。
僕ではない他の誰かと楽しそうに遊んでいる後輩くんを想像して、心の中に真っ黒なモヤがかかっていく。だんだんそれは大きくなって、ズンと重くなった。
だからだろうか、
「今度はなんですか——って、先輩!?」
「あ、え……?」
気づいたら僕は人だかりの中をくぐり抜け、後輩くんの腕を掴んで引っ張っていた。
周りから「眠り姫!?」という驚きの声が聞こえた気がした。けれど僕は自分の行動に一番驚いていて、周りの音がまるで透明な壁に隔たれているようにボヤッとしか聞こえなかった。
「先輩、どうしたんですか?」
後輩くんが不思議そうに聞いてくる。
透明な壁を突き抜けて、後輩くんの声が僕の鼓膜を震わせた。やっぱり後輩くんの声は安心する。どんな時でも、なぜか後輩くんの声だけは鮮明に聞こえるのだ。
「どうした……? えっと、その……」
どうした――どうしたんだろう。自分でもわからない。完全に無意識の行動だった。
(どうしよう。でも、ここでなにも言わないのはおかしいし……)
「一緒に、帰らない……?」
色々考えた末に、ポロっと口から言葉が飛び出す。後輩くんの大きくて見開かれた目を見て僕は自分の発言に気づき、思わずパッと自分の口を両手で塞いだ。
「あ、いやその——」
「はい、帰りましょう」
後輩くんが僕の目を見つめて柔らかく微笑んだ。驚いて口元から少し離れた僕の手を、優しく両手で包み込む。その表情に目を奪われていると、後輩くんが急に顔を上げて周りを見渡した。
「すみません、俺今から先輩と帰るんで。また始業式に」
よく通るその声が、甲高い声をかき消すように辺り一面に響いた。後輩くんの言葉を聞いて、群がっていた女子生徒が諦めた様子でまばらに散ってゆく。
その光景を見て、後輩くんの言葉を聞いて、僕の胸を占めていた黒いモヤがスーッとなくなっていくのを感じた。
「先輩、行きましょうか」
「……うん」
何事もなかったかのように駐輪場へ歩き出す後輩くんの後を慌てて追いかけた。



