眠り姫にはアラーム係の声しか届かない


   
「ごめんね〜、毎朝こんな面倒くさいことさせて」
 徒歩通学の僕に合わせて、後輩くんは自転車をわざわざ押して歩いている。
 僕の言葉に、後輩くんは一瞬歩みを止めた。が、すぐに何事もなかったかのように歩き出す。
「……俺は面倒くさいなんて一切思ってないんで、気にしないでください」
「変な子」
 本当に変な子だ。毎朝わざわざ先輩の家まで起こしに行くなんて、僕なら絶対そんなことしたくない。

 トボトボゆっくり並んで歩いているとすぐに学校が見えてくる。門をくぐれば、登校していた生徒が皆こちらを注目しジッと見てきた。

「あ、眠り姫今日もちゃんと来てる」
「ここ一ヶ月遅刻なしだって」
「あの眠り姫が……!?」
 
 僕は寝起きがめっぽう悪い人間だ。
 爆音でアラームを鳴らしても、身体を揺すられても、耳元で叫ばれても、ベッドから落ちても、僕は起きることなく眠り続ける。
 毎日の遅刻は当たり前、一度寝たら余程のことでは起きない問題児。

 付いたあだ名は――「眠り姫」

 いつの間にか付けられていたこのあだ名はあっという間に学校中に広まり、僕は男なのに『姫』だなんて呼ばれるようになった。
 まあ別に結局はただのあだ名なわけで、僕に直接害があるわけでもないのでそのまま放っておいているが。
 
 そして、隣にいる後輩くんは、こんな僕を唯一簡単に起こすことのできる人物だ。
 
 周りから「鉄壁に守られた鼓膜」だの「耳にボンド詰まってる」だの散々言われてきた僕の耳は、なぜか後輩くんの声だけは眠っていても鮮明に届いて、スッと目覚めることができる。
 四月の中旬、たまたま偶然この事実が判明し、それからなぜか毎朝僕を起こしに家まで来てくれるようになった。
 
 そんな後輩くんに付いたあだ名は——

「あの二人、今日も一緒に登校してるな」
「また家まで起こしに行ったのかなー?」 
 
「さすが、古都音るい(眠り姫)のアラーム係!」

 ——眠り姫()の『アラーム係』