「せ……ぱい——古都音先輩」
「ん……?」
だんだん意識がハッキリとしてくる。いけない、単語帳を開いたまま眠ってしまったようだ。
まだ少しぼやけた視界の中顔を上げると、後輩くんが不安そうな顔でこちらを見つめていた。
「ごめんね、寝ちゃってた。体調はどう?」
「大丈夫です。その、古都音先輩……」
「どうしたの?……珍しいね、名前呼んでくるなんて」
いつもは『先輩』としか呼ばない後輩くんの、珍しい名前呼びに驚いてしまう。そっと立ち上がりベッドに近づくと、手を取られギュッと握られる。
「しんど、くて……」
僕より身長の高い後輩くんは、普段僕のことを見下ろしてくる。そんな後輩くんに見上げられて、心がキューッと締め付けた。昼とはまた違った痛みだ。
後輩くんの手を、ギュッと握り返す。
「大丈夫だよ。お薬飲んで寝てれば、きっとすぐ良くなるから」
「はい」
後輩くんが、握った手に頰を擦り付けてくる。
(あー、今日の後輩くん可愛すぎる……!)
可愛さのあまり謎の笑いが込み上げてきて、クスクスと声を出してしまった。後輩くんに不思議そうに見られてしまった。
「ねぇ、古都音先輩」
「どうしたの後輩くん?」
手をクイクイっと引いて話しかけられたので返事をすると、後輩くんの眉がキュッと眉間に寄る。今日の後輩くんは表情豊かだ。
「その、先輩は……」
「うん」
言い淀む後輩くんに、大丈夫だよと握る手に力を込める。何を言いたいのかは分からないが、後輩くんはそんな変なことを言わないだろうという謎の信頼と自信があった。
「先輩は——俺の名前知ってますか?」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまったのは許してほしい。
(ナマエ、なまえ、名前……?)
なぜ急にそんなことを聞いてきたのだろう。不思議に思ったが、その答えは後輩くんの口からすぐに出てきた。
「先輩、俺のこと『後輩くん』としか呼ばないから……。俺の名前、ちゃんと知ってますか?」
「あぁ〜」
僕としては「先輩」と呼んでくる後輩くんに合わせて「後輩くん」呼びだったのだが、まさか名前を覚えているのか心配されるとは……。僕たちもう知り合って八ヶ月だよ?
僕ははーっと息を吐いて、後輩くんと目を合わせた。
「あいにく、僕は記憶力だけは良いんだよ。——来栖亜蘭くん」
後輩くんの目が、大きく開かれた。口が嬉しそうにモニョモニョと動いている。
「先輩、もう一回言って」
「亜蘭くん。……これ、嬉しい?」
「めっちゃ嬉しいです。……これからは、名前で呼んでほしいです」
「まあ、いいけど……」
ずーっと後輩くん呼びだったから、急に変えられるか不安だ。でも、後輩くん——亜蘭くんがそう呼んでほしいなら頑張って呼ぼうと思う。
「なんか、先輩に名前呼んでもらえてめちゃくちゃ元気出ました。今なら熱下げられそう」
「そんな自力で下げれるものじゃないから。大人しく寝ときなさい」
そんな会話をしていると、下からガチャリと鍵が開く音がした。後輩くんのお母さんが帰ってきたようだ。
そろそろ御暇しようとクッションから腰を上げる。
「じゃあ僕そろそろ帰るね。後輩くん、お大事に」
「亜蘭」
「……亜蘭くん、お大事に」
早速間違えてしまった。後輩くんが不満そうにこちらを見てくる。ごめんて、でもそんな急に呼び方変えられないんだよ……。
夜、渡したゼリーやアイスがお気に召したらしく『美味しかったです、ありがとうございました』と後輩くんから連絡が届いていた。
◇
次の日、無事熱が下がったらしい後輩くんが僕のことを起こしに来た。
「先輩、おはようございます」
「ん、亜蘭くんおはよ〜」
すると、後輩くんがあからさまにピシリと固まった。
「亜蘭くん? どうしたの?」
「いや、先輩こそその呼び方……」
「これ? 昨日亜蘭くんが『名前で呼んで』って言ってきたんでしょ?」
「え゛っ!?」
「え?」
なんと、熱のせいで昨日の記憶がほとんどないという後輩くんは、名前を呼ぶたびに何故か顔が真っ赤になっていた。
僕も早く呼ぶのに慣れるよう頑張るから、後輩くんにも呼ばれ慣れてもらわないとな〜!
「ん……?」
だんだん意識がハッキリとしてくる。いけない、単語帳を開いたまま眠ってしまったようだ。
まだ少しぼやけた視界の中顔を上げると、後輩くんが不安そうな顔でこちらを見つめていた。
「ごめんね、寝ちゃってた。体調はどう?」
「大丈夫です。その、古都音先輩……」
「どうしたの?……珍しいね、名前呼んでくるなんて」
いつもは『先輩』としか呼ばない後輩くんの、珍しい名前呼びに驚いてしまう。そっと立ち上がりベッドに近づくと、手を取られギュッと握られる。
「しんど、くて……」
僕より身長の高い後輩くんは、普段僕のことを見下ろしてくる。そんな後輩くんに見上げられて、心がキューッと締め付けた。昼とはまた違った痛みだ。
後輩くんの手を、ギュッと握り返す。
「大丈夫だよ。お薬飲んで寝てれば、きっとすぐ良くなるから」
「はい」
後輩くんが、握った手に頰を擦り付けてくる。
(あー、今日の後輩くん可愛すぎる……!)
可愛さのあまり謎の笑いが込み上げてきて、クスクスと声を出してしまった。後輩くんに不思議そうに見られてしまった。
「ねぇ、古都音先輩」
「どうしたの後輩くん?」
手をクイクイっと引いて話しかけられたので返事をすると、後輩くんの眉がキュッと眉間に寄る。今日の後輩くんは表情豊かだ。
「その、先輩は……」
「うん」
言い淀む後輩くんに、大丈夫だよと握る手に力を込める。何を言いたいのかは分からないが、後輩くんはそんな変なことを言わないだろうという謎の信頼と自信があった。
「先輩は——俺の名前知ってますか?」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまったのは許してほしい。
(ナマエ、なまえ、名前……?)
なぜ急にそんなことを聞いてきたのだろう。不思議に思ったが、その答えは後輩くんの口からすぐに出てきた。
「先輩、俺のこと『後輩くん』としか呼ばないから……。俺の名前、ちゃんと知ってますか?」
「あぁ〜」
僕としては「先輩」と呼んでくる後輩くんに合わせて「後輩くん」呼びだったのだが、まさか名前を覚えているのか心配されるとは……。僕たちもう知り合って八ヶ月だよ?
僕ははーっと息を吐いて、後輩くんと目を合わせた。
「あいにく、僕は記憶力だけは良いんだよ。——来栖亜蘭くん」
後輩くんの目が、大きく開かれた。口が嬉しそうにモニョモニョと動いている。
「先輩、もう一回言って」
「亜蘭くん。……これ、嬉しい?」
「めっちゃ嬉しいです。……これからは、名前で呼んでほしいです」
「まあ、いいけど……」
ずーっと後輩くん呼びだったから、急に変えられるか不安だ。でも、後輩くん——亜蘭くんがそう呼んでほしいなら頑張って呼ぼうと思う。
「なんか、先輩に名前呼んでもらえてめちゃくちゃ元気出ました。今なら熱下げられそう」
「そんな自力で下げれるものじゃないから。大人しく寝ときなさい」
そんな会話をしていると、下からガチャリと鍵が開く音がした。後輩くんのお母さんが帰ってきたようだ。
そろそろ御暇しようとクッションから腰を上げる。
「じゃあ僕そろそろ帰るね。後輩くん、お大事に」
「亜蘭」
「……亜蘭くん、お大事に」
早速間違えてしまった。後輩くんが不満そうにこちらを見てくる。ごめんて、でもそんな急に呼び方変えられないんだよ……。
夜、渡したゼリーやアイスがお気に召したらしく『美味しかったです、ありがとうございました』と後輩くんから連絡が届いていた。
◇
次の日、無事熱が下がったらしい後輩くんが僕のことを起こしに来た。
「先輩、おはようございます」
「ん、亜蘭くんおはよ〜」
すると、後輩くんがあからさまにピシリと固まった。
「亜蘭くん? どうしたの?」
「いや、先輩こそその呼び方……」
「これ? 昨日亜蘭くんが『名前で呼んで』って言ってきたんでしょ?」
「え゛っ!?」
「え?」
なんと、熱のせいで昨日の記憶がほとんどないという後輩くんは、名前を呼ぶたびに何故か顔が真っ赤になっていた。
僕も早く呼ぶのに慣れるよう頑張るから、後輩くんにも呼ばれ慣れてもらわないとな〜!



