教室に向かって階段を登っている最中、一年生の証である青い上履きを履いた生徒とすれ違った。
「あ、ここ、一年生のフロアか」
一年生の教室は二階にあり、三年生の教室は一番上の階なので途中で通るのだ。
(せっかくだから、後輩くんの所に寄っていこうかな)
たしか後輩くんは一年一組だったはず。
用事があったにしても、『行けません』の一言送りつけるだけなんて酷いと思う。せめて理由くらい聞かせてくれたらいいのに。文句を言いに行くんだと自分で言い訳をして、一組の教室をガラリと開いた。
「ごめん、後輩くん——」
「眠り姫!?」
いる?まで言えず、扉の周りにワッと人が集まってきた。
「うわ、間近で顔見たの初めて!」
「噂通り、めっちゃ綺麗〜!!」
「わざわざ一年の教室来るなんて。なんか用ですか?」
「あ、えっとね、後輩くん——来栖くん居るかな?」
囲んできた人の中でも話ができそうな、背の高い男子生徒に声をかけた。彼は「あー、来栖ですか」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「来栖、今日は熱でお休みです」
「え、そうなの?」
「はい、『熱出たからノートの写真送って』って連絡来てたので。まあ病院行ったらただの風邪だったらしいので、明日には行けそうって言ってましたよ」
「そう、なんだ……」
じゃあ今日後輩くんが起こしに来なかったのも、連絡が一言だけだったのも、熱でしんどかったからなのか。
なんだろう、理由を知れてスッキリしたはずなのに、心の奥が重くなる。黒いモヤモヤが広がって、ぐっと息が詰まる。それは、夏休み前のあの時と同じ感じだった。
胸がキューッと締め付けられるように、痛い——。
「先輩?」
ギュッと胸元のシャツを握って俯いていると、さっきの男子生徒が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「先輩も体調が悪いんですか?」
「あ、いや、ちょっと眠いだけ、かな」
「そうですか、ならいいんですけど……。あ、そろそろ昼休み終わりますね」
「そうだね。……ありがとう、教えてくれて」
「いいえ、これくらいお安い御用ですよ」
え、もう行っちゃうんですか。また来てくださいね!と元気に手を振って見送ってくれる一年生たちに手を振り替えして、早歩きで階段を駆け上った。
はぁはぁと、自分の呼吸音と高鳴る心臓の音だけが聞こえる。階段を登りきった踊り場で、壁にもたれながらズルリとしゃがみ込んだ。
「もう、やだぁ……」
分からない自分の心の中のモヤモヤに、嫌になる。
(僕だけだって言ってたくせに。友達いないって、言ってたくせに……)
少し喋るだけだと言っていたクラスメイトには熱が出たことを伝えて、僕には『行けません』の一言だけ。
それが何よりも不満で、悔しくて……。
でも、そもそも僕と後輩くんは、ただの先輩と後輩で。ノートの写真が欲しいからクラスメイトに伝えるのは当たり前のことで。
そんな当たり前のどこに悔しがっているのかも、僕には分からなかった。
「はぁ……。なんでこんな、モヤモヤするんだろう……」
自嘲気味に自分の髪をワシャワシャと掻き回すと同時に、五限開始のチャイムが校舎中に鳴り響いた。
「あ、ここ、一年生のフロアか」
一年生の教室は二階にあり、三年生の教室は一番上の階なので途中で通るのだ。
(せっかくだから、後輩くんの所に寄っていこうかな)
たしか後輩くんは一年一組だったはず。
用事があったにしても、『行けません』の一言送りつけるだけなんて酷いと思う。せめて理由くらい聞かせてくれたらいいのに。文句を言いに行くんだと自分で言い訳をして、一組の教室をガラリと開いた。
「ごめん、後輩くん——」
「眠り姫!?」
いる?まで言えず、扉の周りにワッと人が集まってきた。
「うわ、間近で顔見たの初めて!」
「噂通り、めっちゃ綺麗〜!!」
「わざわざ一年の教室来るなんて。なんか用ですか?」
「あ、えっとね、後輩くん——来栖くん居るかな?」
囲んできた人の中でも話ができそうな、背の高い男子生徒に声をかけた。彼は「あー、来栖ですか」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「来栖、今日は熱でお休みです」
「え、そうなの?」
「はい、『熱出たからノートの写真送って』って連絡来てたので。まあ病院行ったらただの風邪だったらしいので、明日には行けそうって言ってましたよ」
「そう、なんだ……」
じゃあ今日後輩くんが起こしに来なかったのも、連絡が一言だけだったのも、熱でしんどかったからなのか。
なんだろう、理由を知れてスッキリしたはずなのに、心の奥が重くなる。黒いモヤモヤが広がって、ぐっと息が詰まる。それは、夏休み前のあの時と同じ感じだった。
胸がキューッと締め付けられるように、痛い——。
「先輩?」
ギュッと胸元のシャツを握って俯いていると、さっきの男子生徒が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「先輩も体調が悪いんですか?」
「あ、いや、ちょっと眠いだけ、かな」
「そうですか、ならいいんですけど……。あ、そろそろ昼休み終わりますね」
「そうだね。……ありがとう、教えてくれて」
「いいえ、これくらいお安い御用ですよ」
え、もう行っちゃうんですか。また来てくださいね!と元気に手を振って見送ってくれる一年生たちに手を振り替えして、早歩きで階段を駆け上った。
はぁはぁと、自分の呼吸音と高鳴る心臓の音だけが聞こえる。階段を登りきった踊り場で、壁にもたれながらズルリとしゃがみ込んだ。
「もう、やだぁ……」
分からない自分の心の中のモヤモヤに、嫌になる。
(僕だけだって言ってたくせに。友達いないって、言ってたくせに……)
少し喋るだけだと言っていたクラスメイトには熱が出たことを伝えて、僕には『行けません』の一言だけ。
それが何よりも不満で、悔しくて……。
でも、そもそも僕と後輩くんは、ただの先輩と後輩で。ノートの写真が欲しいからクラスメイトに伝えるのは当たり前のことで。
そんな当たり前のどこに悔しがっているのかも、僕には分からなかった。
「はぁ……。なんでこんな、モヤモヤするんだろう……」
自嘲気味に自分の髪をワシャワシャと掻き回すと同時に、五限開始のチャイムが校舎中に鳴り響いた。



