現役男子高校生で国民的人気アイドルの僕を「性格ブス」と呼ぶ男と同居することになりました

 それから、再び目まぐるしくユニットでの活動が増える日々が続いた。日が昇り切らないうちに起きて、移動して、歌番組の収録をして。合間を縫ってインタビューを受け、雑誌に載せるツーショット撮影をこなす。
 今日は、二十代から三十代向けの女性ファッション雑誌で、特集ページに載せるカットを撮影していた。

「目線はふたりとも、見つめ合う感じでお願いします。もう少し、お顔の距離も近めで」

 秋に発売される号だからと、まだ暑さの厳しい季節にもかかわらず、僕と鍵野は厚手のモヘアニットを着込まされていた。深いブルーにオリーブ色が混じり合うデザインは、私服にも欲しいくらいお洒落だけれど、今の気候には全く合っていない。首筋をじわりと汗が伝っても、スタッフさんが素早くパウダーを叩いてくれるので、表情には出さずに済んでいる。

 撮影が行われているのは、都内のスタジオの一角に作り込まれた『お洒落な海外の小部屋風』のセットだった。白を基調としたフローリングに、くすんだ色味のソファとドライフラワー。大きな窓枠の向こうからは、人工の柔らかな光が差し込んでいる。
 言われた通りに顔を近づけて、じっと鍵野の瞳を見つめた。ぼんやりと頭の中で思う。――寝不足のはずなのに、どうしてこいつはいつもコンディションが整っているんだろう、と。

(ほんと、外見は……ムカつくくらい整ってる)

 鍵野と付き合うことになって、恋人同士……という認識は、ちゃんと頭の中にある。けれど、まともなデートはまだ一度も出来ていない。恋人になる前から同じ屋根の下で暮らしていたせいか、同居人と過ごす毎日に毛が生えた程度で、あまり新鮮みはなかった。
 なのに、あいつはプライベートになると、キスやハグをやたらと求めてくる。いざされると恥ずかしくて、いつも咄嗟に顔を背けたり、唇じゃなく頬に留めたりして、どうにか避けようとしてしまう。急に「恋人スイッチを入れろ」と言われても、役柄になりきるのとは訳が違う。頭では分かっているのに、いざとなると心臓がうるさく鳴って、どうしても素直になれなかった。

「すみません、理央くん、もう少しあざとい表情できます?」
「……は、はい」

 鍵野の方が背が高いから、僕がそういう役回りを求められるのは仕方ない。けれど、演技として表情を作る僕を見て、鍵野は無意識に破顔していた。テーブルの下で、その手の甲を思い切り抓る。それなのに、痛がるどころか、心底嬉しそうに微笑みかけられてしまった。
 仕方なく、ちょんと唇を少しだけ尖らせてみせる。

「理央くん、可愛い~!」

 周りのスタッフさんたちから声が上がった。その反応に、鍵野はこれ以上ないほど満足げな表情を浮かべている。……ちょっと、というか、かなり浮かれすぎだと思う。

「撮影終了でーす、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」

 スタジオを出て、フロアを移動する。エレベーターに乗り込もうとした瞬間、僕たちが待っていた隣の扉がガコンと開いた。
 降りてきたのは、きらびやかな衣装をまとった男子たち。その真ん中を歩く一人がコツ、とブーツを鳴らしただけで、廊下の空気がふっと華やいだような気がした。すれ違いかけたスタッフさんが、思わず足を止めて振り返るほどだ。

「あれ? 橘花くんだ」
「……司くん」

 大宮司(おおみやつかさ)くん。同じ芸能学校に通う同級生で、中学の頃にはドラマで共演したこともある。所属事務所は違うけれど、たびたび顔を合わせる同期だ。国内最大手の男性アイドルグループを抱える事務所の、一番人気の五人組。そのなかで彼はセンターを務めている。

「久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だね」

 スポットライトを浴びるために生まれてきたような人だと思う。すっと通った鼻筋に、長い睫毛が影を落とす切れ長の目。撮影終わりのはずなのに、ラメを塗ったアイシャドウも、毛先まで整えられた髪も、少しも崩れていない。人を惹きつける笑顔は、ファンが「国宝級」と騒ぐのも無理はなかった。
 まぁ、確かに(鍵野ほどではないけど)顔はいい。いいのだけれど……。

「聴いたよ、ユニット曲。相変わらず橘花くんは良い声してるよね」

 柔らかな低音でそう言って、司くんは少しだけ首を傾げ、甘く目を細めた。他の誰かなら、これだけで落ちてしまうんだろう。

「あ、ありがとう」
「で、次こそなんだけど。スケジュールを合わせて、ご飯に行く約束は、いつになったら果たしてくれるのかな?」
「……うーん、まだ忙しいし。SPさんとの兼ね合いもあるから、それはちょっと」

 こんな調子で、とても分かりやすいアプローチを受け続けている。しかも、それがドラマの打ち上げの後からずっとだ。
 あんなキラキラな笑顔で誘われて断り続けるなんて、司くんのファンに知られたら睨まれそうだけれど、それはそれ。顔を合わせる度にのらりくらりとかわしてきたし、なにより花宮社長からは「司くんとだけは絶対に馴れ合わないで」と言われている。
 社長いわく、司くんは芸能界でも指折りのチャラさで、浮いた噂が絶えないらしい。そんな人気アイドルと、ライバル事務所の「優等生」である僕が二人きりで食事をしている姿を撮られようものなら、向こうの事務所まで巻き込んだ一大スキャンダルになりかねない。社長が警戒するのも当然だった。
 それほど向こうを目の敵にしているのだから、ふたりきりの食事会が実現する可能性は――ほぼない、に等しいのだけれど。

「理央くん、もう行こう。遅れたら貝元さんに怒られる」

 横から鍵野が、僕の腕を引いた。

「ご、ごめん。司くん、また今度」
「そう言って、もう二年以上経っちゃうけど。……年下のユニット相手のくせに、ずいぶん世話焼きなんだね? 鍵野くんって」

 からかうように言いながら、その瞳は一瞬も僕から逸れない。口元に浮かぶ余裕たっぷりの微笑みが、また憎らしいほど絵になっていた。

「……は? うざ、何その喋り方。てか、距離近い。離れろって」
「君、初対面にしてはずいぶんと失礼な態度だね」

 鍵野が思い切り眉間に皺を寄せ、僕を庇うように一歩前へ出る。司くんはそんな焦りすら鼻で笑って視線を投げると、「じゃあね、橘花くん」と指先だけをひらりと振って、スタジオへ向かっていった。
 長い脚で歩く後ろ姿に、他の四人が当たり前のように続く。センターとして先頭に立つ背中は、振り返らなくても、嫌というほど人目を集めていた。

「……俺らも行くぞ」

 ぐ、と肩を抱き寄せられる。「鍵野?」と呼びかけても、鍵野は全身から不機嫌なオーラを放ったまま、一言も口をきいてくれなかった。

 車に乗り込んでからも、鍵野は窓の外ばかりを眺めていた。何度か話しかけようとしたけれど、横顔があまりに頑なで、結局は僕も口を閉ざした。重苦しい沈黙を乗せたまま、車は夜の街を走っていく。
 くたくたになって到着したのは、これまでに何度も訪れている高級ホテルだった。

 手配は既に済んでいるらしく、一般客の目を避けるため、サングラスと帽子で変装してキャリーを転がす。支配人が気を利かせて、従業員用のエレベーターから階段を経由し、客室フロアまで案内してくれた。十五階の一番奥、いつもスイプロの所属芸能人が使っているスイートルームだ。

「一応、ベッドはふたつあるから。SPさんはその隣と向かいの部屋。何かあったら、すぐに連絡してね」

 マネージャーの貝元さんの連絡事項を反芻しながら、僕と鍵野はなだれ込むようにソファーへ身を投げ出した。
「あ゛ー」なんて、アイドルらしからぬ情けない声が喉から漏れる。確かに、僕だって疲労困憊だ。それでも、明日からも容赦なく仕事は待っている。

 ふと、スマホが通知を灯した。長押しして確認すると、差出人欄には悠里の名前が表示されている。

『理央~! 今日は収録の後にサムギョプサル食べたよ』
『鍵野くんとは、楽しくやってる?』

 添付された画像には、ピンクの髪が少し伸び、前髪をちょんまげにした、完全にオフモードの悠里が写っていた。サンチュで包んだサムギョプサルを掲げる左手のおまけつきだ。ああ、これきっと、あとでブログに載せるんだろうな。いいな、僕も食べたい。旅行したい――そんな現実逃避めいた思考が頭をよぎった時、視界の隅で画面が暗転した。

「なに、誰とラインしてんの」

 鍵野が不意に、低く冷たい声を出した。

「え、知らないの? 僕と同じクラスだよ。……日韓グループのメンバーで、YURIっていう子。ついこの前デビューしたばかりの」
「知らねぇ。俺よりカッコいい?」
「カッコいいっていうより、可愛い系だよ。今送って来てくれた画像、見せてあげようか?」

 アイドルなら、もっと他の人やトレンドに敏感であるべきだろ、と説教したくなる。けれど鍵野は聞く耳を持たず、僕の手からスマホを奪い取った。途中まで「うん」と打ちかけていた返信欄に、勝手に「超仲良しだよ♡」という文字を付け足して、送信ボタンを容赦なく押す。そして、スマホをクッションの上へ放り投げた。

「えっ、ちょっと、何してんの! 僕のスマホなのに」
「別に、本当のことだろ。なんか問題あんの?」

 けっ、とでも言いたげな不貞腐れた顔。明らかに機嫌を損ねている鍵野に眉を寄せていると、スマホが軽快な通知音を鳴らした。あっという間に既読がついていて、次々に返信が届く。

『え、どうしたの急にー!』
『理央がそんなこと言うの珍しいじゃん』
『もしかして……?♡』

 ほらみろ。言わんことじゃない。僕はそもそも、あんな可愛いハートマークなんて使わないんだよ。
 そう心の中で毒づきながら、横目で鍵野をちらりと見やる。視線が絡んだ瞬間、顎を強引に掴まれて引き寄せられた。

「ん、ちょっと、鍵野……っ」
「友達とか居ないと思ってた。なに、どんくらい仲良いの、コイツと」
「コイツじゃなくて、悠――」

 悠里の名前を最後まで呼ぶことすら許されず、鍵野は覆いかぶさるように唇を塞いできた。言葉の続きを黙らせるための、荒っぽいキス。
 いつもなら、少し肩を叩けば悪戯っぽく笑ってすぐに離れてくれるのに、今日の鍵野は違う。拒絶の余地を一切与えない執着を瞳に宿したまま、僕の抵抗を無視して唇を貪ってくる。

「は、ぁっ、鍵野……」

 圧倒的な熱量に気圧されて、体からすっと力が抜けていく。荒々しく重なる唇の隙間から、熱い息と微かな甘さが流れ込んだ。もっともっとと焦がすように角度を変えられ、舐め上げるような濃厚な舌使いに、頭がとろけていく。

「……俺以外の名前、呼ぶの嫌なんだけど。司とか、悠里とか。ちょっとでも親しければ呼び捨てすんのな」
「な、なんで怒ってるの……?」
「俺のこと……『凪斗』って、まだ一度も呼んでくれたことないだろ」

 思考の輪郭が曖昧になって、目の前が真っ白に染まっていく。抗うことをやめて、鍵野の背中に回した指先で、服の生地をぎゅっと掴んだ。

「そ、そんなこと気にしてたの……」
「気にする。超気にしてる。ガキっぽいって思われたくないから、言ったことなかったけど」

 は、と肩を上下させながら顔を見上げると、鍵野は本当に悔しそうな、それでいて必死な顔をしていた。本当は呼んでほしくてたまらない、みたいな。いつになったら自分の名前を呼んでくれるのかと、ずっとじれったい思いで待っていたのかもしれない。

「ご、ごめんって。鍵野は鍵野だし、そこまで呼び方に執着があるとは思わなくてさ」
「……名前、呼んで。仕事の時は『くん付け』でいいけど、二人の時は呼び捨てにされたい」
「どうして?」
「俺はアンタの恋人だって実感したいから」

 珍しく弱々しい声でそう言うと、鍵野は僕の鎖骨のあたりに額を寄せて、甘えるようにそこで深く息を吸い込んだ。
 まるで、大きな犬がしょんぼりしているみたいだ。

「な、ぎと……」
「……もう一回」
「凪斗。……凪斗」

 噛みしめるように呼ぶと、凪斗は少しだけ泣きそうな表情を浮かべた。それでも、その顔を見られたくないのか、ふっと目を逸らす。今まで悪態ばかりついていた後輩兼恋人が(まぁ、僕も人のことは言えないけれど)こんなにしおらしくなるから、こっちの調子まで狂ってしまう。
 ――甘やかしてあげたい。態度はデカいけれど、凪斗は僕より年下なのだから。

「理央、もっとキスしてもいい?」
「……いい、けど……それ以上はやだ。明日、ドラマの撮影だし」
「じゃあさ、終わったらしてもいい?」
「えっ?」
「理央が撮了して、俺もクランクアップして。そんで、ユニットの握手会も全部終わったら、それ以上のこと、したい。だめ?」

 シャツの隙間、首筋に吸いつくような熱いキスをされて、思わず頭を傾ける。頭の中では「だめ」「離れないと」と思っているのに、身体はすっかり甘やかされて、胸を押し返すこともできない。気づけば、彼の首筋にそっと腕を回していた。

「うん……いいよ。あげる、凪斗に……全部」

 自分の初めてを、凪斗にならあげてもいい。
 それでいて、その最後の最後まで、ずっと――。

「……今ので、撮影めちゃくちゃ頑張れる」
「はは、単純すぎ」
「冗談じゃなくて。スタントなしでやるアクションとか、結構ハードだけど……ご褒美があれば、何でも出来る気がする」
「頭の中、それでいっぱいにならないようにしてよね」

 ふ、と笑ってみせると、凪斗は片手で額を押さえて、ダメージを食らったように天を仰いだ。そういう、表向きでは決して見せない年相応な男子の一面を、こうして独り占めできることが、どうしようもなく嬉しい。
 部屋のメインの灯りを落として、間接照明のオレンジ色の光だけを点ける。すると、ありのままの顔を見られる恥ずかしさも、ツンと尖っていた気持ちも、心地よくほどけていく。

「今日は死ぬほど我慢するから、キスだけは好きにさせて」
「……ん、わかった」

 僕はその夜、初めて凪斗の名前を何度も呼んで、初めて自分からたくさんの「好き」とキスをあげた。

 ***

「桜庭こゆん役、橘花理央さんクランクアップでーす!」

 『サギ☆ドル』最終話の撮影が終わった。ほっと息をつきながら、スタッフたちの温かい拍手に囲まれて頭を下げていると、監督から大きな水色の花束を手渡される。今まで幾つもの現場で、数え切れないほどの花束を受け取ってきた。それなのに、この花束だけはこれまで以上に大きく、腕にずっしりと重く感じられて――。
 気づけば、周りの大人にどう見られるかという打算や計算なんて、どこかへ吹き飛んでいた。とめどなく、心からの涙が溢れてくる。最後にマイクを向けられ、一言挨拶を求められた。

「……えっと、本当に、ありがとうございました」

 鼻をすする音がマイクに拾われ、スタジオのあちこちから優しい笑い声が漏れる。僕は慌てて袖で目を拭い、顔を上げて言葉を続けた。

「最初は、アイドルと俳優の両立をやりきろうって格好つけていて、自分の見え方ばかり気にしていた気がします。でも、この現場で、かっこいいところだけじゃなく、ボロボロになりながらも必死にもがく『こゆん』と向き合って……何より、本気でぶつかってくれる素敵な共演者の皆さんや、支えてくれたスタッフの皆さんに出会えて、本当に良かったです」

 一度、言葉を区切って深く息を吸う。

「アイドルとしての橘花理央でも、完璧な俳優でもない、未熟な僕のままでここに立たせてくれて、ありがとうございました。この作品で培ったものを、これからの現場で、成長した姿としてお返ししたいです」

 深々と頭を下げると、再びスタジオが割れんばかりの拍手に包まれた。

「実は、もうお一方、サプライズゲストが来てまーす!」

 ADさんが茶目っ気たっぷりに笑う。僕が首を傾げて困惑していると、スタジオの扉の向こう、人だかりの後ろから、別の大きな花束を抱えた人影がふらりと現れた。

「理央くん、お疲れ」

 差し出されたのは、深い藍色のスターチスと、淡い紫のライラックをふんだんに束ねた、どこか大人びた花束だった。それを僕の胸の前に抱えさせると、凪斗は照れくさそうに、けれど愛おしさを堪えきれない表情で、ぽんぽんと労るように肩を叩いてくれる。

「な、なんでここに……」
「映画の撮影、午前中で終わったからさ。貝元さんに頼んで、理央くんの撮了を見届けに来た」
「ありがとう。本当に、嬉しい」

 カメラやスタッフたちの目には、多忙なユニットの相方からの、微笑ましいサプライズの一幕に見えるのだろう。

 数週間前にホテルの部屋で交わした約束も、ふたりの唇が何度も重なり合った熱も、僕たちにしか分からない秘密だ。胸の緒でふわりと広がる甘やかな熱を感じながら、あふれそうな笑みを必死に堪えて、凪斗の顔をこっそりと見上げる。

「で、ご褒美。この後の打ち上げは何食べたい?」
「えーっと……」
「どうせピザ一択だろ」
「……うん、ピザがいい。ていうか、分かってるなら聞かないでよ」

 そんな僕たちの自然なやりとりに、スタッフたちが心底癒されたような温かい視線を送ってくる。

「お疲れ様です。お先に失礼します」

 ふたり揃ってお辞儀をし、マネージャーの貝元さんに促されるまま楽屋へと戻った。ガチャリとドアの鍵を閉める。その瞬間――僕は勢いよく、正面から凪斗に飛びついた。

「来るなんて、聞いてない……っ」
「……言ったら、サプライズの意味なくなるだろ」

 照れくさそうに首をすくめて、自分の頬をかく凪斗。その顔を見つめて、僕はそっと自分から目を閉じた。
 ほんの少し前までは、こうして素直に甘えることすら、物凄く恥ずかしかったのに。今では、凪斗といる時間が一番落ち着くって思ってしまう。この腕の中こそ、ありのままの自分でいられる、大切な場所になっていた。

「寂しかった……」
「うん、俺も。でも、もう映画も終わったし。理央もドラマ、よく頑張ったじゃん」

 地方ロケが重なって、数え切れない夜をひとりで過ごした寂しさ。その空白を一気に塗り替えるように、焦がれていた熱が肌を伝う。額や頬、目元へと、会えなかった時間のすべてを埋め尽くすような、愛おしいキスの雨が途切れなく降ってきた。
 離れていた寂しさがそのまま形になったような貪欲さに息が詰まりそうになる。そのままふわりと体を持ち上げられ、メイク用の鏡の前の机に腰掛けさせられた。お互いのジャケットがくしゃりと皺になることなんてどうでもよくて、僕は昂る衝動のまま、凪斗の首筋に両腕をしっかりと回した。
 この安心する匂い。凪斗の体温を全身で抱き寄せるようにしがみつきながら、熱を帯びた耳元へと息を吐き出す。

「……もっと、して」

 喉の奥から零れ落ちた我慢ならないねだりに、凪斗の動きがわずかに強張った後、一段と激しさを増して唇が塞がれた。