「おい、ちょっと面貸せ」
重い言葉が、昼休み始めに教室前の扉から顔を出すイケメンから聞こえてきた。辺りのクラスメイトたちの反応は、あの人って、朝霧くんじゃない!?とか、めっちゃイケメンじゃん!とか、教室中が騒ぎ立っている。
だけれど、朝霧くんの表情からしても、あまりこの雰囲気を好ましく思ってないようにも見えて、急いで朝霧くんと教室から離れる。
「どうしたの? あ、昨日のクッキー不味かった?」
「いやそうじゃないけど」
「何か異物でも混ざってた?」
「ちが」
「まさか僕の髪の毛とか!?」
「だから話を聞けって!」
朝霧くんの言葉によって現実に引き戻されて、なぜか不安も少しマシになった気がした。
「…昨日のクッキーはすごく美味しかった。今まで食べてきた市販のものよりもすごく…、じゃなくて! 昨日、ノート見てたよな?」
うつむく朝霧くんは上目遣いになって質問してくる。僕としては推しの上目遣いとかまじ神すぎて、もうラブズッキューンな状態だけど、今の空気はその喜びを露わにできないのが悔しい。
「はい、見ました」
「あれ……忘れてくれねえ?」
「え、なんで?」
「……いいから忘れろ」
「やだ! 僕はあのノートに書いてあった言葉が好きだよ! 心にグッとくるというか、情景が浮かぶというか、僕の好みなんだけど、忘れたくない!」
僕の勢いが強すぎたのか、発言のパンチが強かったのか分からないが、朝霧くんの目は見開いて、何やら異様な光景を見ているかのようだった。
僕も思わず、なんでそんな顔するの!? とツッコミ交じりで問うが、返ってきた回答は、あのノートを見てそんなことを言う人を初めて見た。とのこと。そのあと恐る恐る聞いてみたのだが、実際には誰にも(僕の場合は、半強制的に見たことにカウントされているようだ。)ノートを見せたことはないらしい。
「とにかく、お前がどんな気持ちを抱こうが俺には関係ない。あのノートは誰にも言えないことしか書いてないから、誰かに言われたらマジで困る。だから忘れろ。いいな? 三、二、一。はい忘れたな」
「忘れられないよ!」
指を鳴らしてまで、そんなに言うほど、恥ずかしいものなのか? 全然恥ずかしくないように思えるけどな…。
「じゃあ忘れる代わりに教えて欲しい。あのノートの表紙には、歌詞ノートって書いてあったけど、軽音部の朝霧くん、ましてやボーカルなんだから、持っててもおかしくないでしょ? どうして隠したがるの?」
「……ねノートだよ」
「え?」
「だ・か・ら! あのノートは本音ノートなんだよ‼」
「じゃあ尚更すごいよ! 朝霧くんの気持ちが凄く伝わってくるし、感情がめちゃくちゃこもってる! 僕は好きだよ!」
頭を下げる彼の耳は赤く染まって、どう考えても恥ずかしがっている雰囲気が窺える。
やっぱり僕、グイグイ行き過ぎてるのかな。
前もこういうことあったから、気を付けてたつもりだったのに。
「──ふ、お前おかしい奴だな」
恥ずかしがってると思っていた顔は僕の顔を見るなり、笑顔に切り替わって、細い目とその満面の笑みがかっこいい顔を際立たせる。
「おかしい!?」
「そうだよ。まぁでも、俺も言いすぎた。ありがとうな、あんなこと言われたの初めてでさ、正直恥ずかしい気持ちもあったけどすげぇ嬉しかった」
「そ、それなら良かったよ」
僕は思わず笑みがこぼれてしまう。どうしても彼の意外な一面や表情の豊かさが僕のツボに入ってしまった。
「…な、なに笑ってるんだよ」
そんなツッコミには恥ずかしさが絡み合っているが、見せないように必死なのが伝わる。
「なんでもなーい!」
「ばか」
「いたっ」
痛みが生じたおでこに、朝霧くんのデコピンが優しく当った。条件反射でおでこを抑えて睨みつけるが、前にいる彼はニヤニヤと頬杖をついている。
「なにほっぺを膨らませてるんだよ」
大きな片手が僕の空気が入った頬を摘まんで、弱々しい声と一緒に一つの穴を作った。
「うぅ」
===
「──そういえば、お前って軽音部に興味ある?」
「…少しだけ、あるけど、どうして?」
「ノートめっちゃ褒めてくれたから。じゃあ今日の放課後に来てよ」
突然の発言に思わず喜びと戸惑いが両端から迫ってきたのもあって言葉が喉で詰まってしまった。
「その時は、料理部寄ってから来るのか?」
「ん? あぁそうだね。うん、そうするよ」
「了解」
そう言って撫でてきた手は温かくて、大きくて、羨ましくて、かっこよくて──、あれなんでこんなに朝霧くんのこと考えるのかな、それも推しとして見てた時より以上に、考えても体が熱くなるし、直視できないし、これって……やっぱ推しとして好きがめっちゃ大きくなった証拠か!
やっぱ朝霧くんはかっこいいし、イケメンだし、気配りもできる明るくて憧れの存在。そりゃあ僕以外にも彼を好きになる人もいっぱいいるはず、でも僕だって同性だけど朝霧くんのことが好き! それは深海よりも、宇宙よりも、銀河よりも、大きな愛持ってる!
そんな思いを抱き続けて一日に終止符を打った。
重い言葉が、昼休み始めに教室前の扉から顔を出すイケメンから聞こえてきた。辺りのクラスメイトたちの反応は、あの人って、朝霧くんじゃない!?とか、めっちゃイケメンじゃん!とか、教室中が騒ぎ立っている。
だけれど、朝霧くんの表情からしても、あまりこの雰囲気を好ましく思ってないようにも見えて、急いで朝霧くんと教室から離れる。
「どうしたの? あ、昨日のクッキー不味かった?」
「いやそうじゃないけど」
「何か異物でも混ざってた?」
「ちが」
「まさか僕の髪の毛とか!?」
「だから話を聞けって!」
朝霧くんの言葉によって現実に引き戻されて、なぜか不安も少しマシになった気がした。
「…昨日のクッキーはすごく美味しかった。今まで食べてきた市販のものよりもすごく…、じゃなくて! 昨日、ノート見てたよな?」
うつむく朝霧くんは上目遣いになって質問してくる。僕としては推しの上目遣いとかまじ神すぎて、もうラブズッキューンな状態だけど、今の空気はその喜びを露わにできないのが悔しい。
「はい、見ました」
「あれ……忘れてくれねえ?」
「え、なんで?」
「……いいから忘れろ」
「やだ! 僕はあのノートに書いてあった言葉が好きだよ! 心にグッとくるというか、情景が浮かぶというか、僕の好みなんだけど、忘れたくない!」
僕の勢いが強すぎたのか、発言のパンチが強かったのか分からないが、朝霧くんの目は見開いて、何やら異様な光景を見ているかのようだった。
僕も思わず、なんでそんな顔するの!? とツッコミ交じりで問うが、返ってきた回答は、あのノートを見てそんなことを言う人を初めて見た。とのこと。そのあと恐る恐る聞いてみたのだが、実際には誰にも(僕の場合は、半強制的に見たことにカウントされているようだ。)ノートを見せたことはないらしい。
「とにかく、お前がどんな気持ちを抱こうが俺には関係ない。あのノートは誰にも言えないことしか書いてないから、誰かに言われたらマジで困る。だから忘れろ。いいな? 三、二、一。はい忘れたな」
「忘れられないよ!」
指を鳴らしてまで、そんなに言うほど、恥ずかしいものなのか? 全然恥ずかしくないように思えるけどな…。
「じゃあ忘れる代わりに教えて欲しい。あのノートの表紙には、歌詞ノートって書いてあったけど、軽音部の朝霧くん、ましてやボーカルなんだから、持っててもおかしくないでしょ? どうして隠したがるの?」
「……ねノートだよ」
「え?」
「だ・か・ら! あのノートは本音ノートなんだよ‼」
「じゃあ尚更すごいよ! 朝霧くんの気持ちが凄く伝わってくるし、感情がめちゃくちゃこもってる! 僕は好きだよ!」
頭を下げる彼の耳は赤く染まって、どう考えても恥ずかしがっている雰囲気が窺える。
やっぱり僕、グイグイ行き過ぎてるのかな。
前もこういうことあったから、気を付けてたつもりだったのに。
「──ふ、お前おかしい奴だな」
恥ずかしがってると思っていた顔は僕の顔を見るなり、笑顔に切り替わって、細い目とその満面の笑みがかっこいい顔を際立たせる。
「おかしい!?」
「そうだよ。まぁでも、俺も言いすぎた。ありがとうな、あんなこと言われたの初めてでさ、正直恥ずかしい気持ちもあったけどすげぇ嬉しかった」
「そ、それなら良かったよ」
僕は思わず笑みがこぼれてしまう。どうしても彼の意外な一面や表情の豊かさが僕のツボに入ってしまった。
「…な、なに笑ってるんだよ」
そんなツッコミには恥ずかしさが絡み合っているが、見せないように必死なのが伝わる。
「なんでもなーい!」
「ばか」
「いたっ」
痛みが生じたおでこに、朝霧くんのデコピンが優しく当った。条件反射でおでこを抑えて睨みつけるが、前にいる彼はニヤニヤと頬杖をついている。
「なにほっぺを膨らませてるんだよ」
大きな片手が僕の空気が入った頬を摘まんで、弱々しい声と一緒に一つの穴を作った。
「うぅ」
===
「──そういえば、お前って軽音部に興味ある?」
「…少しだけ、あるけど、どうして?」
「ノートめっちゃ褒めてくれたから。じゃあ今日の放課後に来てよ」
突然の発言に思わず喜びと戸惑いが両端から迫ってきたのもあって言葉が喉で詰まってしまった。
「その時は、料理部寄ってから来るのか?」
「ん? あぁそうだね。うん、そうするよ」
「了解」
そう言って撫でてきた手は温かくて、大きくて、羨ましくて、かっこよくて──、あれなんでこんなに朝霧くんのこと考えるのかな、それも推しとして見てた時より以上に、考えても体が熱くなるし、直視できないし、これって……やっぱ推しとして好きがめっちゃ大きくなった証拠か!
やっぱ朝霧くんはかっこいいし、イケメンだし、気配りもできる明るくて憧れの存在。そりゃあ僕以外にも彼を好きになる人もいっぱいいるはず、でも僕だって同性だけど朝霧くんのことが好き! それは深海よりも、宇宙よりも、銀河よりも、大きな愛持ってる!
そんな思いを抱き続けて一日に終止符を打った。



