イケメン棒読み演劇部員の練習に巻き込まれました

(寝みぃ……)
 次の日、俺は寝不足のまま通学路をフラフラと歩いていた。
 昨日はあの後、おにぎりを食べて少し話して普通に解散した。問題は、その後だった。
 夜、全く眠れなかったのだ。
 
 目を瞑れば『好きだ』と言った桐崎の声が聞こえて、熱っぽい視線で見つめられて、それで——。
「うわぁぁぁ……!!」
 毛布で頭を覆う。忘れようと意識すればするほど、逆に思い出してしまって……。
 結局何をしても眠れなくて、気づけば朝になってしまっていた。
 
(おかしい、昨日から絶対に何かがおかしい)
 だって桐崎はただのクラスメイトで、でもほとんど絡んだことはなくて、それこそ数日前から練習に付き合うようになっただけの、ただのクラスメイトで——。
 
「クラスメイト。桐崎はただのクラスメイト……クラスメイト……」
「何ブツブツ呟いてんるだ?」
「うわっ! ……って、なんだ佐々木か」
「なんだとはなんだ織宮くんよ。あからさまにガッカリするんじゃありません! こっちが悲しくなるわ!!」
「んな顔してねーし」
 後ろから話しかけてきたのは、クラスメイトの佐々木だった。小学校からの腐れ縁である彼は家も近所で、通学路でよく会うのだ。
 
「なんかフラフラしてるしブツブツ呟いてるし普通に怖かったわ。なに、体調悪いの?」
「んや、ちょっと眠れなかっただけ」
 くわぁっと欠伸を零すと、ご愁傷さまと言いたげな顔でこちらを見つめられる。
「……なんだよ」
「いやぁ、織宮皐月くんも運が悪いなと思いまして〜」
「なんだよ怖いな」
 もったいぶった話し方をする佐々木を睨みつけると、佐々木は面白いものを見たようにニヒヒと笑った。
 
「だって今日、この間の振替で体育二時間あるだろ?」
「あ」
「しかもその後は『居眠りの鬼』こと塚西センセーの授業じゃん」
「あぁぁ……終わった……」
 
 数学の塚西先生は居眠りに異常に厳しく、少しでも眠ってしまったら課題を増やされることで有名だ。現に俺は一回、佐々木は五回増やされたことがある。……いや、佐々木寝過ぎだろ。
 
 まあつまり、居眠りしたら終わりということである。こんな日に限って体育二時間とか、運がないとしか言いようがない。
「……死んでも寝ねーわ」
「頑張れよ、織宮」
 佐々木がポンと俺の肩に手を置く。もちろん、昨日のように熱くなったりしない。
 (ほんと、昨日の俺はどうかしてたよ)
 そんな会話をしているうちに、いつの間にか学校に着いていた。

**
「……駄目だ、ちょっと寝よう」
 放課後、俺は一人で旧3-A教室にいた。桐崎は部活だ。かという俺も、数分前までボランティア部としてきちんと裏庭の掃除をしてきた。
 今日は木曜日、あの屋上の日から一週間経っていた。正直、まだ一週間しか経ってないのかと驚く。人生で一番濃い一週間だったと思う。
 
 そして、桐崎のオーディションは明日に迫っていた。
 
 今日は初めて受ける一年生向けにオーディション説明会があるらしい。いつ終わるか分からないと朝のうちに聞いていた。最終調整をしたいから待つとは言ったものの、眠気が限界突破していた。
 ちなみに、授業は全て居眠りせずに受けた。ここまで来たら意地である。居眠り魔佐々木は残念そうにこちらを見ていた。絶対に佐々木の仲間にはなりたくないからな、頑張った。
 
 まあだから、体育を二時間こなし授業もきちんと受け掃除をした俺は、もう睡魔の限界だった。少しだけなら、眠ってもいいよな。
 きっと桐崎が来たら起こしてくれるはずだ。
 俺はピカピカの床の上に横になる。窓からは風が吹き抜けていて気持ちいい。
 静かに目を閉じれば、一瞬で夢の世界へ旅立ってしまった。

 
 ——みや……織宮
 ——寝てるのか? おーい!
 桐崎の声? もう部活終わったのか。
 いや、これは夢かもしれない。
 
 ふわふわとした意識の中、遠くから桐崎の声がした。現実か夢の狭間なようで、俺は夢だと判断した。
 夢にまで出てくるとか、お前何なんだよ。お前のせいで寝れなかったんだからな。

 ——練習するんじゃなかったのかー?
 するよ。その前に少しだけ仮眠を取ってるだけ。

 ——こんなところで寝てさ〜。風邪引いても知らねーぞ
 身体にふわりと何かが乗った感触がした。
 あれ……これ、夢だよな……?

 ——織宮、俺はさ、お前のことが……
 ん? よく聞こえなかった。

「…………なんて?」
「お、織宮起きた。おはよう」
「……きりさき?」
 目を開けると、桐崎が目の前に座って俺の顔を覗き込んでいた。まだ動かない頭を必死に動かす。
 (えっと、さっきのは夢で……ってどんな夢見てたんだっけ……?)
 駄目だ、頭回ってなさすぎる。
 
 ゆっくりと起き上がると、肩からずるりと何かが落ちた。
「カーディガン?」
「あぁ。織宮さ〜、もう夏前とはいえまだ風は冷たいんだからさ、ちゃんと暖かくしないとだめだよ」
「じゃあこれ、桐崎の?」
「そ」
「……ありがと」
「いいえ、どういたしましてー」
 カーディガンを畳んで返すと、桐崎は壁際に置いていたカバンにしまっていた。
 その様子を見ながら、俺はグッと腕を伸ばす。
 
「織宮、眠いならもうちょっと寝ててもいいんだぞ」
「いや、明日本番だろ? ちょっとでもやらないと」
 時計を確認すると三十分ほど寝れたようだ。仮眠をしたから身体が軽い。
 桐崎はカーディガンの代わりに台本を持って戻ってきた。
「うし、最終調整するか!」
「おう!」