月曜日、俺は旧3-A教室で胡座をかいて桐崎を待っていた。さっきまで掃除をしてみたり黒板に落書きしたりスマホを触ったり色々やっていたのだが、結局落ち着かなくてただ座って待つことにした。
今日は桐崎のオーディション結果が返ってくる日。
放課後、行ってくると緊張した面持ちで部室に向かう桐崎を見送ってから、ずっとここで待っている。
結果が返ってきたら、一番に教えてもらう約束なのだ。
数十分後。
窓から野球部の練習をぼーっと眺めていると、後ろからガラリと教室の扉を開く音がした。慌てて振り返ると桐崎が教室に入ってくるところだった。
「桐崎!」
「おう、織宮」
その表情は、よくわからなかった。
眉を下げ笑っている桐崎は、嬉しそうにも申し訳なさそうにも見える。
ウジウジしていても結果は変わらないのだから、サッサと聞くことにした。
「その……結果は?」
「んー、落ちたけど受かった?」
「どゆこと?」
「いや、オリジン役には落ちたんだけど、代わりに執事のメーデ役に受かった」
「お、おぉ! 凄いじゃん!」
執事のメーデも出演場面は多かったはずだ。オリジンは落ちたものの、大逆進だと思う。
「いいのか?」
「ん? 何が?」
「俺、主演落ちたし。織宮の内申が——」
「あ〜、そんなの別にいいよ。というか、別にメーデ役でも貰えるだろ。凄いし」
そもそも、一年生で主演を勝ち取る方が難しいだろう。二・三年主体の中、一年生でこれほど重要な役柄に選ばれただけでも凄いと思う。
「もっと誇れよ。本当に凄いことだぞ」
「ありがと、織宮のおかげだよ」
「いや、お前の努力の成果だよ。おめでとう」
どちらからともなく、お互いに手を差し出し握手をした。達成感と共に、終わってしまった寂しさが胸をギュッと締めつける。
「じゃ、帰るか」
俺が教室の取手に手を引っ掛けたその瞬間、後ろから腕が伸びてきてドンッと扉に手が置かれる。
既視感しかない。振り返ると、桐崎があの日のように真剣な顔で俺に壁ドンしていた。
「えーと、なんです?」
「織宮、好きだ」
「……へ?」
耳を疑った。何を言っているのだこの人は。
「あー、オリジンの演技とか? 急になんだ——」
「演技なんかじゃない。俺は桐崎司として、織宮皐月に告白してんだよ」
「っ……」
ヒュッと口から息が漏れた。
「な、に言って……」
「……俺は! あの屋上の日から、ずっと織宮が好きだった!」
まさかの告白に頭が真っ白になる。え、桐崎が俺のこと好きで、しかも屋上の日から……?
あの日、何かあったか? 好きになられるようなことをした覚えがないのだが?
「いや、なんで……」
「……一旦座るか」
「そ、うだな」
俺たちは壁にもたれ掛かって横並びで座る。
左側に座る桐崎の顔を見れなくて、俺は緊張でせわしなく動いているつま先に視線を向けた。
「その……屋上の日、俺何かしたっけ?」
「いや、織宮が何かしたとかじゃなくて」
「じゃあなんで……」
「……あの日さ、結構風強かったじゃん?」
「あぁ、そうだったな」
確かに、風のせいで前髪が邪魔で少しの間耳に掛けていた覚えがある。
「あの日織宮が屋上に来たとき、風で一瞬前髪が上がって瞳が見えてさ」
「へ!?」
(まじか、全然気づいてなかった)
教室にいるのに、思わず前髪を押さえてしまった。
チラリと横を見ると、あの日を思い出しているのか桐崎はどこか遠くを見つめていた。
「すげぇ、綺麗だと思った。あの宝石箱みたいな瞳に俺が映っているのが嬉しくて。もっと見たいって、あの瞳に俺だけをもっと映してほしいって思った。……今思えば一目惚れだったな」
「へ、へぇ~」
顔がどんどん熱く火照っていくのがわかる。目が宝石箱みたいとか、初めて言われた……。
「——だから、もっと織宮と一緒にいたくて。二人きりになりたくて。……それで練習に誘った」
「え! そうだったのか!?」
「うん、不純でごめんな。でもまさか、織宮がここまで演技に詳しいとは思ってなかった。今思えば凄いラッキーだったな」
おかげで役取れたし、と桐崎ははにかんでこちらを見た。
「一緒に過ごすうちに織宮が実はすげー真面目で優しいことも知ってさ。一緒にいると楽しいし、どんどん好きになっていった」
桐崎の手が俺の頭に乗ったかと思えば、そこから優しく下に落ちて、頬をそっと撫でられる。
(くすぐったいし、顔熱いの、バレるじゃん……)
俺が俯くと、上からハッと息を呑んだ音が聞こえて、優しく手が離れていった。
「……急にごめんな。最後に伝えたかっただけなんだ」
寂しそうな、悲しそうな声に顔を上げると桐崎が泣き出しそうな潤んだ瞳でこちらを見ていた。
「違っ! 嫌だったんじゃなくて――」
「いや、嫌だろ。急に同性からこんなのさ」
桐崎がもう一度ごめんと呟き立ち上がろうとするのを、俺が腕を引っ張って止めた。
「……織宮?」
「……なら、俺の秘密の告白も聞いてくれ」
「別に、無理に言わなくていいぞ」
「いや、俺が聞いてほしいんだ。……座れよ」
俺が掴んだ腕を下に引っ張ると、桐崎は渋々といった様子でまた俺の隣に座った。
今日は桐崎のオーディション結果が返ってくる日。
放課後、行ってくると緊張した面持ちで部室に向かう桐崎を見送ってから、ずっとここで待っている。
結果が返ってきたら、一番に教えてもらう約束なのだ。
数十分後。
窓から野球部の練習をぼーっと眺めていると、後ろからガラリと教室の扉を開く音がした。慌てて振り返ると桐崎が教室に入ってくるところだった。
「桐崎!」
「おう、織宮」
その表情は、よくわからなかった。
眉を下げ笑っている桐崎は、嬉しそうにも申し訳なさそうにも見える。
ウジウジしていても結果は変わらないのだから、サッサと聞くことにした。
「その……結果は?」
「んー、落ちたけど受かった?」
「どゆこと?」
「いや、オリジン役には落ちたんだけど、代わりに執事のメーデ役に受かった」
「お、おぉ! 凄いじゃん!」
執事のメーデも出演場面は多かったはずだ。オリジンは落ちたものの、大逆進だと思う。
「いいのか?」
「ん? 何が?」
「俺、主演落ちたし。織宮の内申が——」
「あ〜、そんなの別にいいよ。というか、別にメーデ役でも貰えるだろ。凄いし」
そもそも、一年生で主演を勝ち取る方が難しいだろう。二・三年主体の中、一年生でこれほど重要な役柄に選ばれただけでも凄いと思う。
「もっと誇れよ。本当に凄いことだぞ」
「ありがと、織宮のおかげだよ」
「いや、お前の努力の成果だよ。おめでとう」
どちらからともなく、お互いに手を差し出し握手をした。達成感と共に、終わってしまった寂しさが胸をギュッと締めつける。
「じゃ、帰るか」
俺が教室の取手に手を引っ掛けたその瞬間、後ろから腕が伸びてきてドンッと扉に手が置かれる。
既視感しかない。振り返ると、桐崎があの日のように真剣な顔で俺に壁ドンしていた。
「えーと、なんです?」
「織宮、好きだ」
「……へ?」
耳を疑った。何を言っているのだこの人は。
「あー、オリジンの演技とか? 急になんだ——」
「演技なんかじゃない。俺は桐崎司として、織宮皐月に告白してんだよ」
「っ……」
ヒュッと口から息が漏れた。
「な、に言って……」
「……俺は! あの屋上の日から、ずっと織宮が好きだった!」
まさかの告白に頭が真っ白になる。え、桐崎が俺のこと好きで、しかも屋上の日から……?
あの日、何かあったか? 好きになられるようなことをした覚えがないのだが?
「いや、なんで……」
「……一旦座るか」
「そ、うだな」
俺たちは壁にもたれ掛かって横並びで座る。
左側に座る桐崎の顔を見れなくて、俺は緊張でせわしなく動いているつま先に視線を向けた。
「その……屋上の日、俺何かしたっけ?」
「いや、織宮が何かしたとかじゃなくて」
「じゃあなんで……」
「……あの日さ、結構風強かったじゃん?」
「あぁ、そうだったな」
確かに、風のせいで前髪が邪魔で少しの間耳に掛けていた覚えがある。
「あの日織宮が屋上に来たとき、風で一瞬前髪が上がって瞳が見えてさ」
「へ!?」
(まじか、全然気づいてなかった)
教室にいるのに、思わず前髪を押さえてしまった。
チラリと横を見ると、あの日を思い出しているのか桐崎はどこか遠くを見つめていた。
「すげぇ、綺麗だと思った。あの宝石箱みたいな瞳に俺が映っているのが嬉しくて。もっと見たいって、あの瞳に俺だけをもっと映してほしいって思った。……今思えば一目惚れだったな」
「へ、へぇ~」
顔がどんどん熱く火照っていくのがわかる。目が宝石箱みたいとか、初めて言われた……。
「——だから、もっと織宮と一緒にいたくて。二人きりになりたくて。……それで練習に誘った」
「え! そうだったのか!?」
「うん、不純でごめんな。でもまさか、織宮がここまで演技に詳しいとは思ってなかった。今思えば凄いラッキーだったな」
おかげで役取れたし、と桐崎ははにかんでこちらを見た。
「一緒に過ごすうちに織宮が実はすげー真面目で優しいことも知ってさ。一緒にいると楽しいし、どんどん好きになっていった」
桐崎の手が俺の頭に乗ったかと思えば、そこから優しく下に落ちて、頬をそっと撫でられる。
(くすぐったいし、顔熱いの、バレるじゃん……)
俺が俯くと、上からハッと息を呑んだ音が聞こえて、優しく手が離れていった。
「……急にごめんな。最後に伝えたかっただけなんだ」
寂しそうな、悲しそうな声に顔を上げると桐崎が泣き出しそうな潤んだ瞳でこちらを見ていた。
「違っ! 嫌だったんじゃなくて――」
「いや、嫌だろ。急に同性からこんなのさ」
桐崎がもう一度ごめんと呟き立ち上がろうとするのを、俺が腕を引っ張って止めた。
「……織宮?」
「……なら、俺の秘密の告白も聞いてくれ」
「別に、無理に言わなくていいぞ」
「いや、俺が聞いてほしいんだ。……座れよ」
俺が掴んだ腕を下に引っ張ると、桐崎は渋々といった様子でまた俺の隣に座った。


