さよならの記憶写真館

 一時退院を終えた私は酸素マスクを付けてもらい、一日中眠って過ごすようになった。
 肺への転移がより進行したらしく、息苦しいだろうとの対応だった。

「出来るだけ、苦痛のないようにしてやってください」
 痛みで魘されている私を見て、優太は先生にそうお願いしてくれた。
 それにより意識が戻らなくても、死期を早める結果になっても良いからって。

 それからの記憶は今も曖昧で、だけど時折聞こえてくる声があった。
「椿ちゃん、柚花ちゃん。お母さんはね、遠くの世界に行くの。だから、お別れを言おうね」
 窓から雨が降る音が毎日聞こえていたから、今は梅雨の時期に入った頃だと思う。
 死の運命まで、あと数日なのかもしれない。
 だから、澪はまた帰って来てくれたのだろう。

 澪……。あなたの優しさは、過去を変えてもそのままだった。
 週に一度は電車で三時間かけて帰ってきてくれて、私の身の回りの世話や子どもたちのことまでしてくれたね。
 一回、無理して帰って来ないでと言ったら、「帰ってくるのは自分のため。こないだ帰れなかった時なんて、ボーとして美容師の命とされるハサミ落としちゃったんだよ! もう、それなら精神安定上帰った方が良いわー、みたいな?」と言いながら、私に合うウィッグを用意してくれたね。
 ありがとう、私の妹でいてくれて。こんなどうしようもない私を、姉として認めてくれて。

「おかあさん……」
 椿と柚花の声が聞こえる。
 こんなことになって、ごめんね。
 本当はお母さんが二人を育てたかったし、成長を見守りたかった。二人が巣立っていく姿が見たかった。


 椿。あなたは澪おばさんのように優しくて、何時でも妹を優先させてしまうから、お母さんは心配です。
 お母さんが病気だからと聞き分けがいい子になってしまい、母親の役割まで担わせてしまったこと後悔しています。
 優しいことは、決して悪いことでありません。
 でも、あなたが優しくしなければならない人は相手だけではありません。
 自分にも、同じぐらい優しくしてあげてください。


 柚花。あなたの命を危ぶめたこと、小さく産んでしまったこと、謝り尽くせないほどに後悔しています。
 後遺症は出なかったとはいえ、小さく生まれた弊害は数多く、今もあなたに苦労をかけています。
 しかも、あなたは私に似てしまったようで、言葉もゆっくりめな、引っ込み思案のようです。
 本当に、ごめんなさい。
 一つ言わせてもらうなら、そんな自分を認めてあげてください。
 無理して周りに合わせなくていい。友達なんて無理に作らなくていい。
 だけどもし、自分を分かってくれる人と出会えたら、その人を大切にしてください。