さよならの記憶写真館

 ピンポーン。
「ふっ、ふぇぇぇぇんー!」
 突然鳴ったチャイムに澪は真っ赤になって、手足をバタバタさせる。

「大丈夫だよ。花梨おねーちゃんがいるからねー」
 澪をトントンとしている私は姉の立場で、母がその姿を見ると「ありがとう」と任せてくれる。
 幼いのに妹を大切にしようとしているのは確かで、少しだけ自分のことを肯定出来たような気がした。

「あ、お忙しいところすみません。隣に引っ越ししてきた吉永です」
 僅かに聞こえる男性の声があまりにも懐かしく、玄関まで駆け出したい衝動にかられるも、子どもの私は澪に笑顔を向けたまま客人とのやり取りに一切の関心を持とうとしない。
 おじさん。

「子どもがいますので、ご迷惑をお掛けすると思いますが……」
 おばさん。

 まさか、またこの声を聞くことが出来るだなんて。
 澪と私を、本当の娘のように可愛がってくれた。
 悪いことしたら三人一緒に叱ってくれて、第二の父と母みたいな人たちだった。

 お願い、私動いて!
 おじさん、おばさんの顔が見たいよ。
 だって、急にいなくなってしまったんだから。

「花梨、ちょっと来てー」
 お母さんが泣きじゃくる澪を抱き上げ、私の手を優しく引いてくれる。
 だけど臆病な私は人に会うのを拒絶して手を離し、それを理解してくれたお母さんは「ここで見ててね」と玄関から離れた場所に居させてくれた。
 お母さん、よく言うこと聞かない私にイライラしなかったな。
 私は昔からこんなんで、周りを怒らせたり、嫌われたりすることばかりだった。

「あら、かわいいー! 澪ちゃんっていうのー」
 おばさんの柔らかな話し声が聞こえるのに、ここからは顔すら見えない。
 もう、動いてよ、私。
 おじさんおばさんに会える機会なんて、もうないかもしれないのに。
 もう、いい加減にしてよ! 本当にイライラする!
 子ども相手に、しかも自分相手に何言っているのかって感じだけど、私は本当に自分に苛立つことばかりで
、私を一番嫌っていたのは私自身だった。

「花梨、赤ちゃんだよ。澪と同じぐらいに生まれたんだって」
 お母さんがもう一度、私の心にノックしてくれたことで、ようやく私は前に進むことが出来た。

「よろしくね、花梨ちゃん」
 見上げた先には差した太陽の光と、おじさんとおばさんの笑いかけてくれる笑顔。
 おじさん、おばさん。まさかもう一度、会えるだなんて。
 おばさんに抱っこされている赤ちゃんは男の子で、澪より少し小さくて、目をキュッと閉じたままだった。
 不思議と赤ちゃんに手が伸びていた私は小さな手に触れると指を握ってくれ、目をゆっくり開けてくれたかと思えば私の方をじっと見てくれた。

 まだ何も知らない無垢な目に映るのは幼い私の姿で、無条件にただ笑いかけてくれた。

「優太くんだって。かわいいね」
「ゆうたくん?」
 これが未来の夫となる、吉永優太との出会いだった。
 そしてこれから、その未来を変えていくのがこの旅の目的となる。
 おじさん、おばさん。優太を苦しめて、本当にごめんなさい。
 私は必ず優太と澪を結婚に導き、今度こそ幸せになってもらえるようにします。
 おじさん、おばさんに誓って。
 ……これが私の償いだから。