さよならの記憶写真館

 両親が出産を認めてくれて二ヶ月が過ぎた、妊娠二十八週目。九月上旬、夏の入道雲と秋の薄雲が混じり合う、暑い日だった。
 車椅子に乗せてもらった私は看護師さんに押してもらい、人工的な明るさのみで照らされた場所へと向かっていく。
 温かな空間で、周りにいる人全てが手術着にマスクを付けていて身を引いてしまうけど、優しく声をかけてくれて、車椅子から降りた私はそっちに向かって歩き出す。
 目の前には大きな丸いライトに、手術用のベッド、そして透明な四角い箱、保育器が準備してあった。
 そっと膨らんだお腹に触れると赤ちゃんは元気で、よく動いていて、本来ならまだお腹にいられる子を今から出さなければならない。……私のせいで。

 ごめんね、ずっとお母さんの都合であなたを振り回してきて。
 本当なら、もっとお腹にいて、その時を待っていられたのに。
 本来ならみんなに、家族みんなに喜ばれるはずだった命なのに、あなたをどうするか悩んでしまった。
 あなたさえお腹にいなければと、何度も思ってしまった。

 あなたを産んだこと、絶対に後悔しないから。
 どんな結果が待っていたとしても。

「ふぇぇ……、ふぇ」
 椿の時とはあまりにも違う、今にも消えそうな産声。
 九月十二日、1521グラムで生まれた小さな命は私の胸元に来てくれることはなく、保育器の中で小児科の先生により人工呼吸器を付けてもらっていた。
 まだ自分で呼吸することも、外気に触れることも出来ない小さな体。
 今から乳児用の集中治療室に連れて行きケアをするからと、別れの前に赤ちゃんの手を握らせてもらったけど、それはあまりにも小さくて弱々しくて、余計に苦しくなった。
 ごめんね、私が母親で。他の母親の元に宿れば、こんなことにならなかったのに。

 そんなことを思いながら手術室のライトを眺めていると、「全身麻酔をかけますね」と麻酔科の先生の優しい声が聞こえてきて、私の意識はプツンと切れてしまった。
 出産はここまで。これから始まるのは、生きるための手術。
 たった今まで機能してくれていた子宮。二人の子どもに会わせてくれた卵巣。それが私の体から切り離され、摘出されていく。
 今までありがとう。大切にしなくてごめんね。あなたの片側は、ずっとシグナルを送ってくれたのに、それを無視し続けたのは私だった。
 ……もう子どもは産めないんだな。
 無垢な可愛さを、命の尊さを知っているからこそ、それは辛くて、でもどうしようもないことで。
 さようなら、私と共に闘ってくれた戦友。
 二人の子どもを育ててくれてありがとう。