さよならの記憶写真館

「はぁ、はぁ、はぁ」
 医療用のガーグルベースを握り締め、吐くものなんか既になくなっているのに、私の体は無理矢理に何かを吐き出そうと反射的にえずいてしまう。
 抗癌剤薬との相性が悪いらしく、吐き気止めも点滴してもらっていたけど、私は一日中嘔吐に苦しんだ。

 そんな私に対してそっと背中を摩ってくれるのはお母さんで、あれほど泣いて怒鳴っていたのに、副作用に苦しみ始めるとただ泣いていた。

 それから母は、何も言わなかった。
 汚れたパジャマを洗濯して持ってきてくれて、嘔吐を繰り返す私の世話を根気強く支えてくれ、汚い吐瀉物の処理やうがいを手伝ってくれた。

 お母さん。
 本当は抱き締めてほしい。怖いよ、転移してたらどうしよう、私の決断は間違ってるのかな?
 何度も口を開いては閉じて、手を伸ばそうとして引っ込める。
 私に、そんな本心を出す資格なんてあると思う?
 甘えることなんて許されると思う?
 穏やかなお母さんをここまで怒らせて、泣かせて、苦しめた私が……。
 いつもの癖で髪を強く握ると束になって抜けてしまい、「あ、そうだった」と思いながら髪の束をゴミ箱に力無く落とす。
 それを見ていた母は、私の手にまとわりついていた髪の毛を払ってくれた。うつむいたまま、肩を震わせて。

 そんな母に泣くのを我慢出来ない私は、吐く時の苦しさに紛れてポロポロと涙を流す。
「……ごめんなさい」
 親不孝で。
 それを言葉に出来ない私は、ひたすらに謝り続けた。
 お母さんに涙声で、「もういい」と言われても、何度も、何度も。