カチャ。
脳内で機械のような音が響いたかと思えば、目の前の景色がガラリと変わり、見え方までもが変わっていた。
誰かに抱っこされてその相手を見上げることから、しゃがんでくれた大人と顔を合わせる幼児へと。
「じゃあ、お母さんご飯作るからね。澪ちゃんが泣いたら教えてね」
「はーい!」
元気よく手を上げた私はリビングに敷かれてあるプレイマットの上をゆっくり歩き、キラキラと光る目が視界に入った途端に、ニッコリ笑いかける。
「澪ちゃん」
「あー」
ピンクの赤ちゃん用布団でねんねし、無垢な笑顔を向けてくれるのは、二つ年下の妹である澪。
見たところ生後二、三ヶ月ぐらいの乳児だから、私は二歳ぐらいなのかな?
それにしても可愛いな。
「あうあう」と声を出し、私が渡したうさぎのガラガラを握って振って上機嫌みたい。
……ここ、本当に過去の世界なんだな。
アルバムでしか見たことなかった、乳児と幼児が住む部屋の配置。おもちゃの数々。赤ちゃんの澪に、若いお母さん。
本当なら、お母さんに抱き付きたい。子どもの特権でいっぱい甘えたい。大好きだって伝えたい。
だけど、体は全く思う通りに動いてくれなくて。
手足どころか目の動向すら変えられないから、お母さんを見ることすら叶わなくて。
それだけじゃなく、澪に握られている手の温もりも、声を出している時の声帯の動きも、今座っている感覚すらない。
なんだかテレビで過去のホームビデオを見ている感覚で、私はただ傍観しているだけの立場なのだと現実を突きつけられる。
『大丈夫だニャ、時がくればアタイが主人格を入れ替えるからニャ』
頭に聞こえてくるクロちゃんの声は澪にも、後ろの台所でご飯を作ってくれているお母さんにも聞こえてないみたいで、私の魂? に直接話しかけてくれているみたい。
主人格の入れ替え? つまり今の私が過去の私を動かせるようになるってこと?
『ウニャ。それに花梨が入れ替えを願ったら聞くニャ。だけどニャ、主人格の入れ替え時間が多いほど花梨の魂に負担がいくから、本当に必要な時しかしないニャ』
あ、そうなんだ。
そうだ、忘れちゃいけない。
吉永花梨の人生は終わってしまったけど生き物には来世というものがあるらしくて、魂が砕けてしまったら生まれ変わることが出来なくなる。
その要因になるのは、「過去を修正し過ぎること」、「主人格の入れ替え時間」なんだ。
別に生まれ変わりたいなんて願ってないけど、魂が砕け散るとはどんな痛みや苦しみが伴うのか。
脳とか肉体とか、死んでしまった私に残っているのかは分からない。だけど魂の記憶みたいなのが、病が進行していく痛み、治療の苦しみが記憶としてベッタリこべり付いているようで、途端に恐怖へと変わっていく。
慎重な行動を心掛けないと。
臆病な性格で良かった。やっと活用されたようだから。
こうやって自分を宥める辞書がどんどんと分厚くなっていくような人生だったから。
しかし、自分で思った行動を取れないのは厄介としか言いようがなかった。
幼児の視野は本当に狭く、目線も低いから、得られる情報が少な過ぎる。暑さ寒さを感じないから気候を感じ取れないし、今が朝か昼かも分からない。お父さんは自動車修理工事で働いてるから土日関係ないし。
この場面では、一体何が起こるの?
二歳頃なんて記憶があるはずもなく、何の意味があってこの時代に来ているのかが全く分からなかった。
今分かるのは、お母さんが薄手のTシャツだったことと、澪の服装が薄手のロンパースであることから、今の季節は春か秋。
あ、そっか。ここは私の後悔を映し出した世界。
記憶写真に沿って過去を見せてくれるという話だったから、ここは額縁に入っていた二枚目の写真の世界ということ。
じゃあここは春先で、おそらくこの日は……。
運命は分かっているけど、これには抗えない。
だってまだ幼児だから回避する行動は取れないし、何より二人と出会ってもらわないといけないから。
やり直しが出来ない過去修正に気持ちばかりが焦ってしまうけど、やはり運命を変えるのは中学生以降にした方が良い。そうだよね?
今は身を任せるしかない。
だから、せっかくだから澪を愛でるとしよう。
しっかり者の澪にはいっぱい迷惑かけてしまったから、せめて澪が守られる立場でいられる間に。
脳内で機械のような音が響いたかと思えば、目の前の景色がガラリと変わり、見え方までもが変わっていた。
誰かに抱っこされてその相手を見上げることから、しゃがんでくれた大人と顔を合わせる幼児へと。
「じゃあ、お母さんご飯作るからね。澪ちゃんが泣いたら教えてね」
「はーい!」
元気よく手を上げた私はリビングに敷かれてあるプレイマットの上をゆっくり歩き、キラキラと光る目が視界に入った途端に、ニッコリ笑いかける。
「澪ちゃん」
「あー」
ピンクの赤ちゃん用布団でねんねし、無垢な笑顔を向けてくれるのは、二つ年下の妹である澪。
見たところ生後二、三ヶ月ぐらいの乳児だから、私は二歳ぐらいなのかな?
それにしても可愛いな。
「あうあう」と声を出し、私が渡したうさぎのガラガラを握って振って上機嫌みたい。
……ここ、本当に過去の世界なんだな。
アルバムでしか見たことなかった、乳児と幼児が住む部屋の配置。おもちゃの数々。赤ちゃんの澪に、若いお母さん。
本当なら、お母さんに抱き付きたい。子どもの特権でいっぱい甘えたい。大好きだって伝えたい。
だけど、体は全く思う通りに動いてくれなくて。
手足どころか目の動向すら変えられないから、お母さんを見ることすら叶わなくて。
それだけじゃなく、澪に握られている手の温もりも、声を出している時の声帯の動きも、今座っている感覚すらない。
なんだかテレビで過去のホームビデオを見ている感覚で、私はただ傍観しているだけの立場なのだと現実を突きつけられる。
『大丈夫だニャ、時がくればアタイが主人格を入れ替えるからニャ』
頭に聞こえてくるクロちゃんの声は澪にも、後ろの台所でご飯を作ってくれているお母さんにも聞こえてないみたいで、私の魂? に直接話しかけてくれているみたい。
主人格の入れ替え? つまり今の私が過去の私を動かせるようになるってこと?
『ウニャ。それに花梨が入れ替えを願ったら聞くニャ。だけどニャ、主人格の入れ替え時間が多いほど花梨の魂に負担がいくから、本当に必要な時しかしないニャ』
あ、そうなんだ。
そうだ、忘れちゃいけない。
吉永花梨の人生は終わってしまったけど生き物には来世というものがあるらしくて、魂が砕けてしまったら生まれ変わることが出来なくなる。
その要因になるのは、「過去を修正し過ぎること」、「主人格の入れ替え時間」なんだ。
別に生まれ変わりたいなんて願ってないけど、魂が砕け散るとはどんな痛みや苦しみが伴うのか。
脳とか肉体とか、死んでしまった私に残っているのかは分からない。だけど魂の記憶みたいなのが、病が進行していく痛み、治療の苦しみが記憶としてベッタリこべり付いているようで、途端に恐怖へと変わっていく。
慎重な行動を心掛けないと。
臆病な性格で良かった。やっと活用されたようだから。
こうやって自分を宥める辞書がどんどんと分厚くなっていくような人生だったから。
しかし、自分で思った行動を取れないのは厄介としか言いようがなかった。
幼児の視野は本当に狭く、目線も低いから、得られる情報が少な過ぎる。暑さ寒さを感じないから気候を感じ取れないし、今が朝か昼かも分からない。お父さんは自動車修理工事で働いてるから土日関係ないし。
この場面では、一体何が起こるの?
二歳頃なんて記憶があるはずもなく、何の意味があってこの時代に来ているのかが全く分からなかった。
今分かるのは、お母さんが薄手のTシャツだったことと、澪の服装が薄手のロンパースであることから、今の季節は春か秋。
あ、そっか。ここは私の後悔を映し出した世界。
記憶写真に沿って過去を見せてくれるという話だったから、ここは額縁に入っていた二枚目の写真の世界ということ。
じゃあここは春先で、おそらくこの日は……。
運命は分かっているけど、これには抗えない。
だってまだ幼児だから回避する行動は取れないし、何より二人と出会ってもらわないといけないから。
やり直しが出来ない過去修正に気持ちばかりが焦ってしまうけど、やはり運命を変えるのは中学生以降にした方が良い。そうだよね?
今は身を任せるしかない。
だから、せっかくだから澪を愛でるとしよう。
しっかり者の澪にはいっぱい迷惑かけてしまったから、せめて澪が守られる立場でいられる間に。



