さよならの記憶写真館

 幸せな時間はゆっくり、でも確実に進んでいく。

「あれ?」
 その一言から始まった違和感。
 寝起きにやたら気持ち悪くて、ご飯の炊ける匂いが不快で、なんだか胸やお腹がチクチクする。
 これって。


「心拍確認出来ました。おめでとうございます、ご懐妊ですよ」
 田舎町が桜色に染められる春先。
 椿が二歳になる頃、第二子の妊娠が判明した。

「診察しますね」
 椿の時もお世話になった同世代ぐらいの女医さんに促され診察用ベッドで横になり、右下腹部を触診された時だった。先程までにこやかだった先生の表情が変わったのは。

「……このお腹の膨らみ、いつからあります?」
「え? えーと」
 情けないことに、この頃の私は半年前に感じていた違和感のことをすっかり忘れていて、気付けば右半分に握り拳ぐらいの大きさの塊を気に留めてしなかった。
 別に痛くないからって。

「ちょっと診ますね」
 硬くなったお腹の上に当たる、パソコンのマウスみたいな機材。動く度に鈍い痛みが走り、思わず顔を歪めてしまう。
 こんなのだっけ?
 椿の時にも受けた腹部エコーだったけど今回はやたら長く、先生はモニターを凝視し、何度も何度も同じ場所に機械を当て、写真を何枚も撮っているようだった。

「何か……?」
 赤ちゃんに見つかったのですか? と聞こうとするのに、声はどんどんと消えていく。
 私と目が合った途端にまたいつもの穏やかな笑顔に戻り、念の為じっくり見てますと返事してくれるけど胸騒ぎを覚えていく。

「……んー、腫瘍がありますね。検査した方が良いと思います」
「あ、はい」
 やたら診察室の空気が重くて、付き添いの看護師さんも押し黙ってしまっていて。
 この時は気付かなかったんだよね。先生が何も言わなかったのは、優しさからだったなんて。
 だって今言っても、検査結果が出た後でも、妊娠した今なら同じことなんだから。
 普段は自分でも呆れるぐらいに神経質なくせに、肝心なところでは鈍感で。本当、嫌になっちゃうよね。