さよならの記憶写真館

 パシャ。
 記憶写真二十一枚目。
 洗面所の鏡前でファンデを塗っている私は大人になっていて、この頃は肌も髪も艶があり健康体だったのだと、見て取れる。
 着ているのは水色の半袖シャツで、化粧を終えた私は手を洗って慣れたようにパジャマのズボンを洗濯機に入れ、夏用のハーフデニムに足を通していた。
 何気ない日常動作。だけどここに非日常が潜んでいたなんて思いもしなかった。

『あ……れぇ』
 小さな溜息を吐き、大きく息を吸うも下腹は一向にへこんでくれず、力を入れた親指と人差し指が痛くて力が抜けていく。
 産後二度目の夏。久しぶりに通した夏用のハーフサイズのジーパンはボタンが締まってくれず、以前より下腹部がポッコリしていた。
 ……これが産後太りってやつかぁ。
 洗面所の鏡に映るのは、妊娠前よりふっくらした自分の姿。 
 体重は三キロ戻らなかったし、垂れたお腹は戻らなかったし、顔まで丸くなってる。
 プニプニの頬を触り、伸びる上腹を摘んで伸ばし、垂れた下腹を触ると……あれ?

『何……、これ?』
 柔らかい下腹の一部が硬くなっていて、なんか小さなものが、指先三本くらいの大きさのボールみたいなのがお腹に入っているようだった。

 ……って、時間!
 今が朝だったと気付いた私は、寝ている椿を起こしに行き、優太が朝ごはんを作ってくれている間に、椿の保育園準備をしていく。

 そんな二十八歳の私に声をかけられるはずもなく、目まぐるしい日常をただ傍観していた。

 ……本当に、無知だった自分が悔やまれる。
 その時に病院に行って検査を受けていれば、未来は変わっていただろうに。