『優太……』
青時雨が窓ガラスを叩く中、その先に見える煙突の煙を優太はただ眺めていた。
優太が大学一年生の時におじさんが交通事故に巻き込まれる形で亡くなり、優太は突然守られる立場から守る立場へと変わった。
おじさんが突然亡くなり、気落ちしたおばさんを守る立場へと。
大学費や当面の生活費は用意されていたから卒業とかは問題なかったらしいけど、この先を見据えた優太はバイトの数を増やして勉強と仕事ばかり。
空を見上げて無邪気に笑っていられる、そんな子どもではいられなくなってしまった。
おじさんが亡くなり二年。
おばさんも立ち直り、人に任せたままになっていた雑貨屋さんの切り盛りを再開して、優太は試験を受けて気象予報士の資格を取得し、航空会社への就職が決まった。
おばさんは母と話しをしながらまた笑うようになり、また私を食事に誘ってくれるようになった。
優太もまた笑うようになり、悲しみは少しずつ癒えていくのだと信じていた。
だけど、運命はどこまでも残酷だった。
優太が二十四歳の冬。おばさんが突然亡くなった。
早起きのおばさんがなかなか起きてこないと優太が様子を見に行ったら、布団の中で冷たくなっていたらしい。
元々心臓が弱かったらしく、寝ている間に心不全を起こしたのではないかと結論付けられた。
『花梨……。俺、一人になっちゃったよ』
詳しくは聞いてないけど、おじさんとおばさんは児童養護施設で育ったらしく、親族はいないらしい。
つまり優太は、二十四歳で天涯孤独になってしまった。
だけど優太は、この状況でも涙を見せず気丈に振る舞っていた。
おじさんの時もそうだった。
泣くおばさんの代わりに葬儀の段取り、会社の人への挨拶、書類とかも一人でやってて、おじさんの死を嘆くことはしていなくて。
あの時は守るべき存在がいたからだろう。
立ち直ったおばさんと二人で支え合って生きていたのに、今度はそんな人もいなくなってしまった。
『優太を、一人にしないよ。私が、絶対に……』
私が優太の手を握っているのに、支えないといけないのに。また目から涙が流れてきて、優太が慰めてくれるように強く握り返してくれた。
これじゃあ立場があべこべだよね? 情けない。
だけど、だけどね。
私が、泣けないあなたに代わって泣けたらと思ったの。
あなたの苦しみを知って、分かち合って、一緒に乗り越えて、離れない。
『約束、してくれないか? 花梨は俺を絶対に置いていかないって』
『うん』
ずっと、私が側にいるから。優太を一人にさせないから、そう誓ったの。
ゴーン、ゴーン。
重い鐘の音が鳴り響く中、ずっと一緒にいられますようにと。
私はこの日、罪深い嘘を吐いた。
その七年後、約束を破ることになるなんて思いもしなかったから──。
青時雨が窓ガラスを叩く中、その先に見える煙突の煙を優太はただ眺めていた。
優太が大学一年生の時におじさんが交通事故に巻き込まれる形で亡くなり、優太は突然守られる立場から守る立場へと変わった。
おじさんが突然亡くなり、気落ちしたおばさんを守る立場へと。
大学費や当面の生活費は用意されていたから卒業とかは問題なかったらしいけど、この先を見据えた優太はバイトの数を増やして勉強と仕事ばかり。
空を見上げて無邪気に笑っていられる、そんな子どもではいられなくなってしまった。
おじさんが亡くなり二年。
おばさんも立ち直り、人に任せたままになっていた雑貨屋さんの切り盛りを再開して、優太は試験を受けて気象予報士の資格を取得し、航空会社への就職が決まった。
おばさんは母と話しをしながらまた笑うようになり、また私を食事に誘ってくれるようになった。
優太もまた笑うようになり、悲しみは少しずつ癒えていくのだと信じていた。
だけど、運命はどこまでも残酷だった。
優太が二十四歳の冬。おばさんが突然亡くなった。
早起きのおばさんがなかなか起きてこないと優太が様子を見に行ったら、布団の中で冷たくなっていたらしい。
元々心臓が弱かったらしく、寝ている間に心不全を起こしたのではないかと結論付けられた。
『花梨……。俺、一人になっちゃったよ』
詳しくは聞いてないけど、おじさんとおばさんは児童養護施設で育ったらしく、親族はいないらしい。
つまり優太は、二十四歳で天涯孤独になってしまった。
だけど優太は、この状況でも涙を見せず気丈に振る舞っていた。
おじさんの時もそうだった。
泣くおばさんの代わりに葬儀の段取り、会社の人への挨拶、書類とかも一人でやってて、おじさんの死を嘆くことはしていなくて。
あの時は守るべき存在がいたからだろう。
立ち直ったおばさんと二人で支え合って生きていたのに、今度はそんな人もいなくなってしまった。
『優太を、一人にしないよ。私が、絶対に……』
私が優太の手を握っているのに、支えないといけないのに。また目から涙が流れてきて、優太が慰めてくれるように強く握り返してくれた。
これじゃあ立場があべこべだよね? 情けない。
だけど、だけどね。
私が、泣けないあなたに代わって泣けたらと思ったの。
あなたの苦しみを知って、分かち合って、一緒に乗り越えて、離れない。
『約束、してくれないか? 花梨は俺を絶対に置いていかないって』
『うん』
ずっと、私が側にいるから。優太を一人にさせないから、そう誓ったの。
ゴーン、ゴーン。
重い鐘の音が鳴り響く中、ずっと一緒にいられますようにと。
私はこの日、罪深い嘘を吐いた。
その七年後、約束を破ることになるなんて思いもしなかったから──。



