「……白猫様」
自分が呟いた言葉に驚いて目を開けると、やっぱりそこにはクロちゃんがいてくれた。
「ありがとう。……まだ、魂保ててるんだ」
「花梨は強いからだニャ」
「ありがとう」
眠っていたソファから立ち上がり、向かうのは記憶写真が飾られた部屋。
写真はどのように変わったのだろう。
「……あ」
思わず声を漏らし、目を逸らしてしまう。
澪、優太、私の三人が写った写真は跡形もなく消え去り、残ったのは床に手を付いて泣く澪に、頬を抑えて俯く私だった。
澪……、優太に別れを告げることなく、上京していったのかな?
ごめん、私のせいで。私の身勝手で、澪をずっと振り回してきて。
「花梨、見てみるニャ」
クロちゃんの視線に沿って顔を上げると、そこには変わらない写真たちが私を出迎えてくれた。
「どう……して?」
澪が私の乗った車椅子を押してくれ病院内を散歩させてくれてる写真、洗濯とか、一時退院した時はお風呂後の着衣とか手伝ってくれたりとかして、闘病生活の決して綺麗ではないところまでやってくれている澪が写っていた。
子どもたちの世話だって。口からの汚れを拭いて、おむつ替えて、手洗いからのシーツ洗濯とか、抵抗ありそうなことまで進んでやってくれた。
終末期に入って話も出来なかったのに、何度も病院に来て手を握って、話しかけてくれた。娘たちを連れてきてくれて、「お母さんを忘れないで」と、伝えてくれた。
最期の看取りをしてくれた写真にも澪は変わらず子どもたちの後ろにいて、共に泣いてくれていた。
全ての写真の構図は変わっていなかったけど、澪の髪色だけは変わっていて、東京で変わらず美容師として働いているのだと、胸に詰まっていたものが溶けていく。
「えっ! なんで!」
流れそうになった涙が引っ込んだ、一枚の写真。
黒いタキシードにネクタイを締めた優太に、その横に並ぶ私は花冠を被っていて、白いドレスに身を包んでいる。
おそらく写真館で撮ったと思われるものだけど、そんなはずはない。
優太には挙式を上げようと言われたけど、そうゆうのは苦手だと断り、写真すらも拒否したから。
……まあ本音を言うなら、愛もない結婚にそんなことをしても虚しいからだった。
でも、それなのに、どうして?
「きっと澪ちゃんの、『おめでとう』と『ごめん』の気持ちだニャ」
「……え?」
どうゆうことかと写真に目を凝らすと、見覚えのある物が二つあった。
ピンクや赤色の花を合わせたブーケ、白い花と緑の葉であしらえた花冠。
「……澪」
熱い喉元に言葉を詰まってしまった口に相反して、目からは止めどなく涙が流れてくる。
これ、澪が作ったものだよね?
澪が東京の美容師の仕事辞めてこっちに戻ってきてくれた時、治療費の足しになればと内職としてフォトウエディングをする人用にと、ブーケや冠を作ってウェブで販売してたよね?
私、それ見てたから分かるよ。ブーケの花の配置とか、冠の編み込み具合とか。
……本当に何でも出来るんだって、嫉妬したから。
なのに澪は、おそらく修正後の人生では必要なかった内職とかしてないのに私たちのために作ってくれたの?
こんな醜い嫉妬心を持った姉に──。
目をゴシゴシと指で擦り周りを見渡すと、変わらずに存在してくれていた、優太が布団で眠っている私の頭を撫でてくれている写真。その後ろには澪がいて優太を見ていたけど、今現在の変わった写真には写っていなかった。
「きっと澪ちゃんは、優太への恋心と失恋を認めたからこそ、前に進めたんだニャ」
「恋心……と失恋?」
えっ? 澪って、もしかして?
「ウニャア、修正前は優太を好きだと気付いてなかったっぽいニャ。なんか優太と一緒にいると楽しいニャーとか、花梨が一緒にいるとザワザワっとするニャアー! とか。だから優太とバイバイしたんじゃないかニャア? 花梨にイガイガする自分がイヤだったんだニャ」
イガイガって、まさか澪が私に嫉妬していたってこと?
「ニャア、でも理由も分からず辛かったんだニャアよ。だから今回、優太とぶつかってダメだったけど、それで良かったんだニャ。ずぅーと忘れられない方が辛いニャ」
「……忘れられないほうが……」
そうだよね。中途半端が一番辛いよね。
修正前の人生では、私は優太との関係をひた隠しにしていたから、澪からしたらハッキリしなくて余計に苦しかったよね。
私に澪と向き合う勇気があれば、湧き上がる嫉妬心を認められていたら、もっと自信が持てていたら、澪をずっと縛り付けることもなかったのに。
「花梨が澪ちゃんに本気でぶつかったから、未来は変わったんだニャ」
「うん」
大好きな妹が、自分のために生きる未来へと。
自分が呟いた言葉に驚いて目を開けると、やっぱりそこにはクロちゃんがいてくれた。
「ありがとう。……まだ、魂保ててるんだ」
「花梨は強いからだニャ」
「ありがとう」
眠っていたソファから立ち上がり、向かうのは記憶写真が飾られた部屋。
写真はどのように変わったのだろう。
「……あ」
思わず声を漏らし、目を逸らしてしまう。
澪、優太、私の三人が写った写真は跡形もなく消え去り、残ったのは床に手を付いて泣く澪に、頬を抑えて俯く私だった。
澪……、優太に別れを告げることなく、上京していったのかな?
ごめん、私のせいで。私の身勝手で、澪をずっと振り回してきて。
「花梨、見てみるニャ」
クロちゃんの視線に沿って顔を上げると、そこには変わらない写真たちが私を出迎えてくれた。
「どう……して?」
澪が私の乗った車椅子を押してくれ病院内を散歩させてくれてる写真、洗濯とか、一時退院した時はお風呂後の着衣とか手伝ってくれたりとかして、闘病生活の決して綺麗ではないところまでやってくれている澪が写っていた。
子どもたちの世話だって。口からの汚れを拭いて、おむつ替えて、手洗いからのシーツ洗濯とか、抵抗ありそうなことまで進んでやってくれた。
終末期に入って話も出来なかったのに、何度も病院に来て手を握って、話しかけてくれた。娘たちを連れてきてくれて、「お母さんを忘れないで」と、伝えてくれた。
最期の看取りをしてくれた写真にも澪は変わらず子どもたちの後ろにいて、共に泣いてくれていた。
全ての写真の構図は変わっていなかったけど、澪の髪色だけは変わっていて、東京で変わらず美容師として働いているのだと、胸に詰まっていたものが溶けていく。
「えっ! なんで!」
流れそうになった涙が引っ込んだ、一枚の写真。
黒いタキシードにネクタイを締めた優太に、その横に並ぶ私は花冠を被っていて、白いドレスに身を包んでいる。
おそらく写真館で撮ったと思われるものだけど、そんなはずはない。
優太には挙式を上げようと言われたけど、そうゆうのは苦手だと断り、写真すらも拒否したから。
……まあ本音を言うなら、愛もない結婚にそんなことをしても虚しいからだった。
でも、それなのに、どうして?
「きっと澪ちゃんの、『おめでとう』と『ごめん』の気持ちだニャ」
「……え?」
どうゆうことかと写真に目を凝らすと、見覚えのある物が二つあった。
ピンクや赤色の花を合わせたブーケ、白い花と緑の葉であしらえた花冠。
「……澪」
熱い喉元に言葉を詰まってしまった口に相反して、目からは止めどなく涙が流れてくる。
これ、澪が作ったものだよね?
澪が東京の美容師の仕事辞めてこっちに戻ってきてくれた時、治療費の足しになればと内職としてフォトウエディングをする人用にと、ブーケや冠を作ってウェブで販売してたよね?
私、それ見てたから分かるよ。ブーケの花の配置とか、冠の編み込み具合とか。
……本当に何でも出来るんだって、嫉妬したから。
なのに澪は、おそらく修正後の人生では必要なかった内職とかしてないのに私たちのために作ってくれたの?
こんな醜い嫉妬心を持った姉に──。
目をゴシゴシと指で擦り周りを見渡すと、変わらずに存在してくれていた、優太が布団で眠っている私の頭を撫でてくれている写真。その後ろには澪がいて優太を見ていたけど、今現在の変わった写真には写っていなかった。
「きっと澪ちゃんは、優太への恋心と失恋を認めたからこそ、前に進めたんだニャ」
「恋心……と失恋?」
えっ? 澪って、もしかして?
「ウニャア、修正前は優太を好きだと気付いてなかったっぽいニャ。なんか優太と一緒にいると楽しいニャーとか、花梨が一緒にいるとザワザワっとするニャアー! とか。だから優太とバイバイしたんじゃないかニャア? 花梨にイガイガする自分がイヤだったんだニャ」
イガイガって、まさか澪が私に嫉妬していたってこと?
「ニャア、でも理由も分からず辛かったんだニャアよ。だから今回、優太とぶつかってダメだったけど、それで良かったんだニャ。ずぅーと忘れられない方が辛いニャ」
「……忘れられないほうが……」
そうだよね。中途半端が一番辛いよね。
修正前の人生では、私は優太との関係をひた隠しにしていたから、澪からしたらハッキリしなくて余計に苦しかったよね。
私に澪と向き合う勇気があれば、湧き上がる嫉妬心を認められていたら、もっと自信が持てていたら、澪をずっと縛り付けることもなかったのに。
「花梨が澪ちゃんに本気でぶつかったから、未来は変わったんだニャ」
「うん」
大好きな妹が、自分のために生きる未来へと。



