さよならの記憶写真館

『花梨ちゃんって何で喋んないの?』
『何考えてるか、分かんないよねぇー』
『小さい組の澪ちゃんと、クラス変えたらいーのにね?』

 幼稚園の頃、遊戯室隅でいつも小さくなっていた私は同じクラスだった子に笑われていた。
 四歳児クラス、年中になっても人前で上手く話すことが出来なかった私は、からかいの対象だった。
 先生の目が離れている時に、私へのからかいはずっと続いていって、段々と声すら出せなくなって。そしたら声まで出にくくなって、完全な悪循環となっていく。
 だからこそ、その気持ちを話せないから余計に苦しかった。
 そんな私が唯一出来たことは絵を描くことだった。
 言葉に出来ない気持ちを絵に描いていく。
 本当は友達を作って、一緒に遊びたい。
 本当はみんなと仲良くしたい。
 本当は自分の気持ちを声に出したい。
 だけどそれが叶わない私は、ひたすらに絵を描いていた。

『やっぱり、絵描くの上手いね』
 一つ年下の優太が入園してきて、ひとりぼっちだった私は一人ではなくなった。
 別に一緒に絵を描くわけでも、空を見上げ続けるわけでもない。ただ側にいて、時折顔を合わせて笑い合う。
 かけがいのない時間だった。

『へったな絵だなぁ』
 同じクラスの男の子に、私の落書き帳を取られたのが全ての始まりだった。
 まあそんなこといつものことだったと記憶してるけど、この日は落書き帳を返してくれなくて。

『返し……てよ』
 何も言えない私の代わりに、優太が声を震わせて言ってくれた。
 だけど子どもの意地悪は時にしつこくて、引き際を知らない。
 悪口に泣く私に、怒る優太。先生の目がないことから、どんどんと酷くなっていった。

『こらぁー! おねーちゃんと優太をいじめんなぁ!』
 グスグス泣く私に、落書き帳を取り返そうとして転けて泣いている優太。二人で手を繋いで泣いていると、間に入ってきたのは、小さな女の子。
 年少さんの澪だった。

 年中児と年少児の喧嘩だから当然体が小さい澪の方が不利で、男の子たちが落書き帳を持った手を振り上げてしまえば届くはずない。

『返してよぉ! 返せー!』
 バタンっという大きな音と「うわああああん」と泣く声で、事態は大きく変わってしまった。


『本当に、すみませんでした』
 お母さんが男の子のお母さんに、ひたすらに頭を下げていた。
 澪が落書き帳を取り返そうとしてくれたけどバランスを崩し、一緒に倒れてしまった。
 男の子は頭を打って病院に行くことになり、澪は怪我をさせたとして怒られる対象になってしまった。
 澪は私が揶揄われているとお母さんに話したらいけないと何となく感じているようで事情を聞かれても何も話さず、ただ怒られるのを受け入れているようだった。
 なのに私ときたら、澪が助けてくれようとしたことを話せず、ただグスグスと泣いてばかり。

 結局、優太が泣きながら起きたことを話してくれて、澪に対する濡れ衣はなくなったけど、怪我をさせてしまったのは事実で謝ることになった。
 澪はこの時のこと、何も言わなかった。
 優しくて、正義感が強くて、常に誰かのことを考えていて。そんなあなたこそが優太の隣にいるのが相応しいと思っていた、本心で幸せになってほしいと願っていた。