さよならの記憶写真館

 クリスマスなんて、大嫌い。
 まさか、そんなふうに考える日が来るなんてね。……しかも、死後に。
 でもなんか、クリスマスデートをする澪までも同じこと考えているような雰囲気を醸し出しているようで、服もメイクも完璧なのに、どうしてなんだろう?


 雪がチラチラと降り始めた、聖なる夜。
 リクエストして作ってもらった、クリスマスディナーのチーズたっぷりピザトースト。大好きな甘いコーヒーと共に、パクパクと食べる。
 高校生のクリスマスなんて子供の頃みたいにケーキ買ってきてパーティとかしないし、ましてや仕事の父とデートに行く妹とで家には二人しかいないし、普通でも全然良かったんだけどね。

「クリスマスに一緒に過ごす人ぐらい、居ないの?」
 夕方の情報番組はクリスマス特集ばかりで、街道のライトアップされたツリーの映像を見ながら呆けていると普段そうゆうこと聞かない母がそんなことを言ってきた。

「だって菜穂は、またおじいちゃん家に行くっていうし」
「……優太くんは?」
 突然出てきた優太の名前に、ピザパンのチーズを垂らしてしまう、十七歳の私。

「優太は澪と出掛けてるし。今頃、ツリー見てるんじゃないの!」
 無関心を装いたいのにどうにも声が裏返ってしまう私は、コーヒーをガブガブと飲み「熱っ」と声を出す。

「昨日、何で家の前に居たんだろうね?」
「澪を待ってたんじゃないのー」
 わざとらしく頬杖を付き、横並びになっているお母さんから顔が見えないようにと、前乗りになる。
 おそらく目が潤んでいて、唇をキュッと噛み締めていて。
 そんな姿、お母さんに見られたくないもんね。

「……花梨を待ってたんじゃないの?」
「えっ」
 椅子からスッと立ち上がったお母さんは、テーブルと反対方面にある台所の方に体を向け、水切りにある食器を布巾で拭いては食器棚に戻していく。
 それを背中で聞いていた十七歳の私は、肯定も否定もせず、ただ小さく息を吐くことしか出来なかった。

「一回、優太くんと……」

 ガチャガチャガチャ。バンッ。
 玄関ドアの鍵を開錠する音と、ドアが開く音があまりにも乱暴で、お母さんは咄嗟にまな板上にあった包丁に手を伸ばそうとするけど、階段を登っていく足音に二人で顔を合わせて溜息を吐く。
 軽快に階段を駆け上がる音に、軽い足音。
 それは体重が軽くて運動慣れしている澪のもので、ヤバい侵入者ではないと安堵するけど、まだザワザワとした空気感が漂う。
 澪……? 一体、どうしたっていうの?

「待って、お母さんが行くから。ピザ、硬くなる前に食べちゃいなさい」
 リビングから出て行こうとした私の肩をポンポンと叩き、お母さんがパタパタと階段を駆け上がっていく。
 一人残された私はカーテンをそっと開け、空を見上げていた。
 また、二人の秘密が出来たんだろなって。



 澪はあれから、年末の大掃除だぁーと部屋の家具をどけての本格的な掃除を始めて、お父さんに手伝ってもらいながら模様替えまでしてしまった。
 こんなこと、あったっけ?
 見覚えのない家具の配置に呆然としていると、澪はやたらイキイキした表情をしていて、それが余計に私の心に刺さっていく。
 優太を、この部屋に呼ぶのかなぁ。
 別に小学生の頃からそうだったし、同じだよね?
 ……って、高校生の私ならそう考えていた。
 だけど三十二年生きてきた大人がそんなふうに思えるはずもなく、互いに高校生でいい感じの相手を部屋に招待するということは、まあそうゆうことだと嫌でも予想が立ってしまう。
 そっか、そうだよね。こないだはクリスマスイブだったもんね。珍しく澪が取り乱していたもんね。