さよならの記憶写真館

「……優太、土曜日何してたの?」
 月曜日の登校時、おはようの次に出てきた言葉に三十二歳の私は戦慄する。
 ちょっと待って、何聞いてるの、私? ……やめてよ

「あ、いや。……空を見てた、かな?」
「……そっか」
 スッと逸らした目は遠くを見ていて、優太に向かうことはなかった。
 そっか、隠すんだ。二人だけの秘密なんだね。二人だけの……。

「空といえばさ、土曜日……、いや先日望遠鏡を見に行ったんだけど。品揃えが良くて、型とか色々あってさ! バイト代も溜まってきたし、どれ買おうか悩んでて! パンフレットもらってきたんだけど、どれもよくて決められなくて! あー! 本当、どうしようって感じなんだぁー!」

 目をキラキラとさせ、ニパッとした緩んだ笑顔を見せ、少年のようにはじゃぐ。
 この顔はよく見ていて、私が一番好きな表情だったりする。
 ……だけど今は、一番見たくないな。
 だって、土曜日と全然違うんだもの。

 私の前では子どもっぽいのに、澪の前ではかっこよくなるんだ。
 腹の奥から出てきた、身勝手過ぎる本音。

 可愛い澪の前では、背筋を真っ直ぐ伸ばして、目をキリッとさせて、口元も締まっていて。大人の男性であろうとするのに、私の前ではそうはならないってこと?
 男の人は横に並ぶ女性で変わるというけど、本当なんだな。

「って、ごめん。朝からうるさいよなぁ」
 眉を下げてハハッと笑って見せた優太は、いやあ寒くなったなとわざとらしく猫背になり両腕を手で擦りつける。
 いつもなら、にこやかに聞いている私が真顔なんだもんね。優太からしたら、戸惑うよね。

 だって、昨日の優太と澪が並んで歩く姿があまりにも絵になっていて、まるで付き合っているカップルみたいで。
 私と一緒に居た時、一度でもあんな顔してくれた?
 あの瞳で、私を見つめてくれた?
 ないよね、だってただの幼馴染だもんね。
 だけど澪は特別で。だから、私は……。

 もう、考えるのやめよう。
 余計、惨めになるだけだから。

 今日は体調が悪いと理由をつけて、部活に行かなかった。久しぶりに座る一人用座席はやたら広く感じ、バスの左折右折で揺れてバランスを崩しかける度に思う。
 私がこんなんだから、優太は私を女子として見なかったんだろうなって。これから先もないんだろうなって。
 だから。

「花梨? 帰って来てるのー?」
 パートから帰ってきたお母さんが玄関で私のローファーを見たようで、トントントンとリズム良く階段を駆け上ってくる音が響く。
 いつもは部活があるからお母さんより帰りが遅くて、テスト期間でもないからこの疑問はもっとで、また具合が悪いんじゃないかと心配してくれていると分かっているからこそ。

「また具合悪いの?」
「お母さん、私……」
 母の顔を見ず、布団を被ったまま、わがままを通させてもらうことにした。