さよならの記憶写真館

 パシッ。

「ひゃあ!」
 突然、後ろから手首を引っ張られ、グラッと体が揺れる。
 手袋を付けていない私の手は冷たいけど、私の手首に触れる肌は温かい。
 そんなことを考えながら振り返ると、目の前には初めて見る優太の真剣な表情に胸がまたドクンと鳴り響く。

「ちょっと、離してよ……」
 体温が上がるのを悟られないために手を大きく振るも、優太の力は強くて全然離れてくれない。
 改めて優太が男の子だったんだと気付かされると、より体が紅潮していくのを感じる。
 ねえ、やめてよ。そんな顔で見られたら、意志が鈍るじゃない。お願いだから、やめて。

「待ってよ」
 次は泣きそうな顔になって、でも何度も瞬きして必死に我慢しているようで、高鳴っていた心臓はどんどんと締め付けられてくる。
 私はこの顔に弱い。子供の頃から支え合っていた私たちは、相手の泣きそうな表情にすごく敏感で、思わずこっちまで泣いてしまって、二人で手を繋いでなぐさめ合っていたから。

「嫌だよ。俺、……そんなの嫌だよ」
 潤んだ瞳に掴まれていない左手を伸ばしてしまいそうになるけど、それを強く握り締めた私は、離してと言いたげに私の手首を掴んでいる優太の手に触れる。

 ダメなんだよ。私じゃ、ダメなの。どっちにしても私は、あなたを一人にしてしまう。
 優太を幸せに出来るのは……。

「……花梨じゃないと、やだよ」
 私じゃないと?
 その言葉の意味が分かっているからこそ、今度は冷たいものが全身に駆け巡ったような痛みが立ち込める。
 ……もう、やめてよ! 優太はどうせ、私のこと好きじゃないくせに!
 苛立ちから、そう声を張り上げようと息を思いっきり吸うと、私が声を出す前に優太が先に呟いた。

「俺、花梨が好きだから!」
 ……えっ?

 優太は途端に目を泳がせて、顔なんか真っ赤にして、口をゴニョゴニョさせて、あれほど強く掴んでいた手を離して、走り去ってしまった。
 思わず力が抜けてしまった私は、地面が土だというのにその場にへたり込み、ただ呆然と握られていた右手に左手を添えていた。

 えっ、何? なにが……起きたの?
 私を、好き? そう、言った?

 ゴロゴロと唸る空は、もう少しで雨が降ると知らせてくる。小さい時なら優太が「雨が降るから急ごう」と手を繋いで走ってくれたな。
 とうとう降ってきた雨は一気に雨足が強くなり、ザァーと音を鳴らす。だけど私は祠で雨宿りすることもなく、ただ冬の冷たい雨を浴びながら、一歩も動けないでいた。

 ずるい、ずるいよ。どうして、そんなこと言い出すの?
 私のこと、好きじゃないくせに──。