さよならの記憶写真館

 どうやって二人を取り持つべきか?
 そう悩んでいた、十一月上旬。昼夜によって寒暖差が出てきた頃、中間テストが終わってひと段落ついた夜に私の部屋にノック音が響く。

「お姉ちゃん、ちょっといい?」
 目をキョロキョロとさせてブスッとした表情を作ってるけどどこか口元が緩んでいて、今から何を言ってくるのか察した私の魂からピキッと音がしたような気がした。
 突然感じた体の重みに、座っていたベッド端から滑り落ちそうになり手を付いて止める。
 体の所有者が私に切り変わった。大事な場面だと判断したクロちゃんが切り替えてくれたのだろう。

「ちょっ! 大丈夫!」
「うん……。はは」
 ベッドに座り直し、澪に隣に座ってもらう間に声が裏返らないために咳払いする。
 口元から手を離せば、にっこりと笑う私がいて、胸の痛みなんかないように平静とする自分がいた。

「あのさ、優太と出かけたいと思うけど、どう誘ったら良いかなぁ?」
 相談と銘打っているけど、実際は私への伺いだろう。
 二人だけで出掛けて良いかっていう。
 澪はすごいな、ちゃんと私の気持ちを考えて真正面から話してくれる。過去の私なんて舞い上がって、そんな配慮出来なかったのにね。

「ショッピングモールとか、良いんじゃない? あそこ、望遠鏡の専門店とかあるし」
「……そんなのあるんだ?」
 ん? と言いたげな表情で、澪が首を傾げる。
 しまった! 流行にのっている澪が知らなくて私が知ってることなんて、まずない。すごく不自然な状況だよね、これ!
 私は自分が主人格になって行動を起こす時、らしからぬ発言をしないように注意を払っていた。
 情報に疎くて、興味の幅が狭くて、提案とか出来ない。
 それが私。
 今こうやって話せるのは、人生二回目ゆえの知識があるから。それを使ってはいけない。

「って、菜穂が言ってたのー。あ、でも、調べてねー」
 ボヤけてくる視界を戻そうと目をパチパチさせると、これってごまかす時の仕草だと思い出し、意識して目の力を緩める。
 本当、嘘を吐くのって難しい。特に澪は鋭いから気を付けないと。

「……あ、本当だぁ。六月オープンしてたんだー。情報通ー! お姉ちゃんに聞いて良かった、ありがとう!」
「な、菜穂がねー」
 声まで吃ってしまって、本当嫌になる。
 それぐらいのこと、想定しておかなかった自分にも。

 あくびを装って小さく溜息を吐き呆けていると、隣では携帯をカチカチ操作させていて思わず視線を向けてしまうと、可愛い文章に動く絵文字を多用したメール文が出来ていた。
 ……すごいな。
 そんな考えと共に、ザワザワとしたものが湧き立っていく。
 おそらく私なら、ウダウダ言いながら数日かかるだろう。だけど澪は、それを数分でやってしまう。
 姉妹なのに、なんでこんなに違うんだろうね。

「返事、来ないな」
「優太は遅めだからね」
「あ、そうなんだぁ……」

 メールを送って三十分が経った頃。澪はスライド携帯を閉じて、「ありがとうね」と言って部屋を出て行った。その声は萎んでいて、明らかにその肩はガクッとしていて、落ち込んでいると分かる。
 また余計なこと言っちゃったな。
 ようやく澪の気持ちを理解出来た私は、髪をクシャとさせる。
 私達が携帯を持ち出したのは高校生になってから。
 澪と優太は高校が違うからか、中学卒業からは連絡を取っていないと聞いていた。たしか、子どもの国に行こうと誘った時に。
 私とは連絡取ってるんだって、嫌な気持ちになったよね? 私達が同じ高校で、一緒に通学してるとかそんなの分かってても。
 二度目の人生でも、上手く立ち回れない私。
 どうしてこんなに、生きるのが下手なんだろう?
 まあ、もう死んでしまったからどうでも良いことなんだろうけどね。


「お姉ちゃん!」
 日曜日の夜。メールから一日経った頃に、澪がノックの返事を待つこともなく入ってきた。
 また突然の人格入れ替えに体がフラつくも、瞬時に対応出来るようになったのは、この過去修正で得た唯一のものかもしれない。

「聞いて! 優太オッケーだって!」
「そっか、やった! 良かったねー!」

 感情を消す方法も、習得出来たらいいのにね。
 不自然なほどに張り上げた声を抑えながら、不意に思ってしまう。
 そっか、そうだよね、
 何だろう、この水の中に沈んでいく感じは。
 どんどん周りが暗くなっていって、息苦しくて、這い上がっていけないような恐怖があって。
 もう地上には戻れないよ、と言われているような気がして。
 何考えてるの? 断ってくれないかとか、期待していたの?
 自分で離しておいて、何言ってるの?
 あのショッピングモールにしたのは、二人の思い出の場所にして欲しかったから、だよね?
 本当、行動と感情が伴わないことほど辛いことはないね。