さよならの記憶写真館

 カラッとした秋晴れが広がる、空下。
 着慣れない服に身を包んだ私は、周囲をキョロキョロと見渡していた。
 視界に入る白のノースリーブに、黒いカーディガン羽織ってるから大丈夫だと言い聞かせ、視線を下げたら見える太ももに、ハイソックスを仕切りに上げる。
 マスカラ、瞼に付いてないかな? グロス、軽めにしたけど大丈夫かな?
 手鏡を小さな手提げ鞄から取り出し何度も確認するけど、とにかく落ち着かなくてソワソワと無駄に歩き回ってしまう。
 あー、ダメだ! 着替えに帰ろう! ごめん、菜穂……。
 今日のためにメイクを教えてくれ、コーデをしてくれた菜穂の気持ちを無下にして足早に立ち去ろうとする臆病な私。
 だって心臓が壊れそうに痛く、どうしてもこの緊張に耐えられなくなった私は駅を後にしようと走ろうとするけど、目の前にはこっちに向かってくる優太がいて、一目散に物陰に隠れる。

 えっ、待って! まだ待ち合わせ時間、十分前だよ? 何で、もう来るの〜!
 既に来ていた自分を棚上げして頭の中でパニックを起こしていると、優太が携帯を開いて閉じて、駅の入り口で待ってくれていた。
 ……今日も良いなぁ。
 優太の横顔を眺めた私は、不意にそんな感情が横切っていった。
 今日も髪型がしっかり整っていて、ゆったりとしたTシャツにカーデガンにジーパン。ラフなのにしっかり似合っていて、今時の男子高生って感じ。
 あの横に並びたかったから、オシャレして来たんだよね?
 本当に良いの?

 ドッ、ドッ、ドッ、と胸が鳴る中、私はあの言葉をただ繰り返し再生していた。

「大丈夫だよ、自信持って」
 菜穂が言ってくれた、魔法の言葉。
 ここで勇気を出さなかったら、私はずっと過去に引っ張られた人生を生きていくことになるかもしれない。
 そんなの嫌だ。もう、変えたいの。僻んでばっかの自分を。

『お待たせ……』
『……えっ、か、花梨!?』
『うん……』
 私の顔を見て目をパチクリとさせた優太は、足元に視線を下ろしたかと思えばまた上げて、口元に手を当ててしまった。
 
 えっ、どうしよう。絶対、変だと思われた。
 手を置いた口元は、笑いを堪えているのではないかと、鼓動が速くなった心臓は強く締め付けられる。

『行こっか?』
『あ、うん……』
 優太は服装とかメイクとか一切言わず、電車の中でも私の方をチラリとも見なかった。
 ただ今回は乗り換えがないから良かったって、苦笑いするだけで。

 電車に揺られること一時間半。あまりにも懐かしい、テーマパーク複合施設に辿り着く。
 子どもの国、遊園地、アウトレット。
 若い世代は、遊園地かアウトレットに向かって行ってるのに、私達は親子連れに混じって子どもの国へと向かっていく。
 係員さんの気遣いで、ここは幼児向けの施設だと教えてくれるが、ウサウサに会いに来たのだと優太が軽く説明してくれて、チケットを買ってくれた。
 それがなんとも恥ずかしくて、申し訳なくて。
 俯いてしまった私に、優太はスッと指差した。

『ウサウサ!』
『ふわぁ! か、可愛いー!』
 ウサウサのフワフワの着ぐるみに、先程まで感じていた恥も外聞もなくなり、小さな子どもに紛れて、私たちも並ぶ。
 順番が来て、子どもの頃から好きでと身の上話をして、共に写真を撮ってもらうはずが。

『あ、いや。私は……』
 そう言いながら持参したデジカメで、ウサウサポーズをしてくれた姿を撮っていく。

『一枚ぐらい、一緒に写ったら?』
『えっ! いや、別に……いいし』
 せっかくの写真に、私なんかが写るなんて!

『ほら』
 優太にデジカメを奪われてしまった私は、ウサウサのコイコイの仕草に呼び出され、横に並ぶ。
 優太が撮ってくれていると、後ろの人に話しかけられたようで、デジカメを預けて走ってくる。

『撮ってくれるんだって』
『ふぇ!』
 また変な声が出た私は小さく会釈し、ウサウサを挟んで優太と並ぶ。
 この日撮ってもらった写真はお気に入りのウサウサ写真立てに入れて勉強机の引き出しに隠していた。
 記憶写真にも写し出されていた、高校二年生の秋の思い出。
 それから射的に、ゴーカートに、メリーゴーランドに、観覧車まで満喫してしまった。

『また、来たいね』
 私達が乗ったゴンドラが頂上に着く頃、優太がボソッと呟いた。
『優太は、退屈じゃなかった?』
 気になっていた本音が、ポロッと溢れてしまった。

『えっ、何で? 子どもの頃みたいで楽しいよ』
 ゴンドラの窓から見える青空はあまりにも澄んでいて、子どもの頃に連れて来てもらった時と同じで。だけど座席とかは明らかに狭く感じるようになっているから、私達は間違いなく成長したのだと、実感が湧いてくる。

『また、来れたらいいね』
『……うん』
 きっと、そんな未来は訪れないだろうと思っていた十四年後、まさか本当に来ることになるなんて思いもしなかったな。
 私たちの子どもを、連れてくることになるなんてね。