さよならの記憶写真館

『花梨さん、写真に変化がありません』
「え?」
 本来なら、十七歳の私が応じた誘いを断れば過去を修正出来るはず。それなのにどうして?

『まだ何かあるのかもしれません。しばらくこの時代に留まりましょう』
「はい」
 優太は控えめな性格で、おそらく二度誘ってくれることはないと踏んでいた。
 どうしてかと思っていたけど、それは小さな優しさから始まってしまった。
 夏休み二日前、帰りのバス停でバスを待っている時だった。

「絵画展、行けないんだって?」
「……えっ?」
 優太の問いかけに私は何も返せず、ただ身を硬直させてしまう。
 十七歳の私が優太に本当のことを言わないように、この五日間は私が中に入っていた。
 なのに、どうして?

「いや、……菜穂さんから、聞いてさ。……その、だから。花梨と、一緒に行ってくれないかって……」

 菜穂が!
 想定しなかった展開に、思わず目が揺らいでしまった。

 小学校が一学年一クラスの小規模な学校だったから、別の学年の子を知っているのは別に珍しいことではなくて、優太と菜穂は私を通して面識があった。
 私が優太のこと好きなのも察してくれていたようで、おそらく取り持ってくれたのだろう。
 ……菜穂。
 この時、家のことで大変だったのに、私のことを気にかけてくれていたの?
 わざわざ優太の元に行って、その話をしてくれるなんて。

「あのさ、花梨。良かったら、俺と行かない? 良かったら……だけど」
 控えめで、物腰が柔らかくて、繊細な目をしていて。
 もし十七歳の私だったら、声には出せなくても大きく頷いていただろう。
 だけど、それは……。

「あ、ううん。いいの、ありがとう……」
 何とか振り絞った声は裏返ってしまい、変な返事になってしまった。

「そっか、ごめん」
「違うの……。だから……」
 何と返したら良いのか分からずに脳内で言葉を転がしていると、定刻通りにバスが来て、沈黙の中で乗り込む。
 いつも車内では話さないけど距離だけは近くて、バスが揺れると腕が当たるぐらいに近いのに、今日はどこか遠かった。

 私だって、本当は行きたいよ。
 可愛い服着て、今度は自信持って優太の隣を歩きたい。
 それで菜穂が気に入ってくれたブルースカイの絵の具 いっぱいお土産に渡して、「ありがとう」って伝えて、菜穂の話を聞いて。
 後悔したことを修正したいと願ってしまうけど、それは出来ない。