さよならの記憶写真館

 互いの部活がない土曜日。家族には菜穂と絵画展に行くと言っていたのをあえて訂正せず、待ち合わせの九時十五分に合わせてパタパタと家を出て行った。
 恥ずかしくて駅舎で待ち合わせにしてもらって、約束時間より十分早く行ったのに優太は既に改札前で待っていてくれて、心の奥底から熱い物がブワッと一気に溢れてきた。
 優太の私服姿は久しぶりで、Tシャツとジーパンはシンプルだけど似合ってて、それに合わせたリングのネックレスとワックスを付けたような髪をしているからか、女性ファッション誌の隣に写っているような男の子に見えた。

『行こっか?』
『うん』
 気後れしてしまっている私に声をかけてくれ、九時三十二分に到着した各駅停車の電車に乗り込む。

 当時スマホはそこまで普及していなくて持っておらず、乗り換えアプリとかの便利機能なんてない。だから十番線もある駅内で、案内掲示板を見ながらなんとか乗り換えて、無事に目的地に着いた。
 だけど地方都市の駅内は広くて、西出口に行きたいのに東出口に行ってしまったり、降りるのも迷った。
 今思えば簡単な話なんだけど、高校生の私たちにはハードルが高くて、私一人だったら間違いなく乗り換えを諦めて帰っていたと思う。
 だからショッピングモールに辿り着いた時にはそれだけで嬉しくて、行きたかった絵画展に行くと綺麗な絵に迎えいれられて、もう涙腺が緩んでしまって。一枚、一枚じっくりと眺めて、特に茜色の夕陽に魅了された優太と私はその場から離れられなかった。
 来れてよかった。菜穂にも見てもらいたかったな。
 そんな思いで画材売り場に行くとお店は広く、地元以上の品揃いの良さにまた感動して、菜穂の分まで絵の具を買った。

 次に双眼鏡売り場を見に行くと、優太は急に子どもみたいにはしゃぎ始めて、一つ一つの機能を教えてくれたな。
 もう楽しくて、だいぶ遅い昼ご飯を食べようとなって。ファーストフード店でハンバーガーのセットを頼んで、二人で顔を合わせて食べた。
 子どもの頃、うちの両親に連れて来てもらって、当たり前のように優太がいて、三人で食べたポテトはすごく美味しかったな。
 ハッと気付けば優太と二人きりで、なんか改めて顔を合わせると急に恥ずかしくなって、胸がいっぱいでポテトをちみちみと食べて時間かけてしまったけど優太は普通に待っててくれた。
 ようやく食べ終わって片付けをしていると、目に付くのは周りの女の子たち。
 メイクして、髪もヘアしてて、当時の流行りだったノースリーブのワンピースを綺麗に着こなしていて、だからこそ、後悔した。
 その横に並ぶ私は、とにかく地味な英文字のTシャツとジーパンに黒のスニーカー。もっと、オシャレしてきたら良かったと。

 だって、張り切ってるとか思われたくなくて。
 勘違いしているとか思われたり。……それだけは、絶対に嫌で。

『どうしたの?』
『ううん』
 お盆を返しに行ってくれていた優太が戻ってきて、私は止まっていた手を動かしてテーブルを拭いていく。
 優太は、どう思ってるのかな? 隣にいるなら可愛い女の子の方が良いよね……澪とか。

 中学校を卒業して、二年。今は澪とは違う高校に通っているというのに、まだ人と比べる呪いは解けてくれなかった。
 ……優太を意識するほどに、私ってどうなのかなと。

 まだ時間はあるからと、その後はぶらっとモール内を歩いた。
 一階に並んであるオシャレな服屋さんに行く度胸なんてあるはずもなく、二階の雑貨屋さんメインに歩くけど、気付けば優太から一歩距離を取って歩いていて、またどこか気後れしてしまっている私がいた。

『可愛いね』
『……うん』
 優太に向けられた視線が気になって、持っていたマグカップをそっと棚に戻す。
 手に取っていたのはピンクのウサギの絵がプリントされてある「ウサウサ」という幼児が見る番組に出てくるキャラクターで、私は高校生になってもいまだに大好きだった。

『良かったら、だけど……。プレゼントするよ』
『……えっ? でも……』
 優太はバイトして双眼鏡を買おうとしているのに、もらってしまっていいのだろうか?
 高校生がウサウサだなんて、恥ずかしいよね?
 でも……。

 黙り込んでしまった私に、優太は買いに行ってくれて、包装まで頼んでプレゼントしてくれた。

『……ありがとう。大切にするから……』
 渡されたマグカップが入った袋は、存在感が大き過ぎて、やたら重たく感じた。
 嬉しかったんだ。変わらなきゃと焦っていた私に、そのままで良いんだよと言ってくれたみたいで。
 このマグカップは本当に大切にしていて、結婚する時に持ち込んで、まだ持っててくれたんだと優太は驚いてたな。
 大切にしていたよ。マグカップも、膝掛けも、ぬいぐるみも。
 全て、遺品になってしまったけれど。