「吉永花梨さん、初めまして。私は、この写真館の支配人です。三十二年と二ヶ月の人生、お疲れさまでした」
支配人さんは開けたドアを静かに閉め、手を前方で合わせたかと思えば、深々と頭を下げてくれた。
「……ありがとうございます」
そんな労ってもらえるほどの人生を、私は生きてこれたのだろうか?
「幸せな人生、でしたか?」
不意に過った悲観的な思いを汲み取ってくれたような言葉が優しすぎて、私の胸はどんどんと熱いものが詰まっていく。
「はい、幸せ……でした。最期は家族に囲まれて、看取ってもらえて……」
最後の写真はベッドで眠る私に、夫、娘二人、両親、妹、みんなに囲まれていた。
力失くした私の手を握ってくれ、頭を撫でてくれ、声をかけ続けてくれた。
その温かさも、優しさも、私の中で残っている。自分が死んだ時に泣いてくれる人がいてくれるなんて、人生で一番幸せなことだから。
「しかし、あなたには悔いがあるようですが……?」
全てを見通した目はあまりにも真っ直ぐで、気付けば上げていた口角が下がり、力無く息が溢れていた。
「それは……。だって、それは。私にとっては幸せな終わり方だったけど、残された家族は? あの人はこれから一人親として責任を果たさないといけないし、椿と柚花はまだ四歳と二歳で母親が必要な年頃。澪は責任感ある子だから自分の人生を投げ出して、これからも家族の為に生きてしまう。だから、それが……、苦しくって……」
気付けば涙声になっていて、俯いた目からは熱いものが溢れてきて、強く目を閉じる。
そんなこと言われても困るだろうと、しゃくり上げる息遣いを抑えて大きく息を吸って吐くも、喉の奥がどんどんと詰まっていく。
さっき逸らしてしまった写真を直視すると、そこには俯き口元を抑えボロボロと泣く夫に、そんな曲がった背中を摩ってくれている、細く長い手。その先には目を閉じ、唇を強く噛み締めている妹の澪が写っていていた。
おそらく余命宣告を受けて、最後の思い出にと自宅に帰って来た日。私がリビング隣の和室で眠っていた時に行われたやり取りと思われる。
私の前では絶対に涙を見せなかった夫。そっか、澪の前では泣いてたんだ。
あの人を支えられるのは澪。これからを支えられるのも。でも、その形は……。
「それが、あなたの未練ですか?」
あんな八つ当たりみたいな言い方してしまったのに、支配人さんはただ私の話を頷いて聞いてくれ、私の心に的確な言葉を返してくれる。
だから私は、小さく頷くことが出来たのだろう。
「ここに収められているのは、あなたの記憶を現像化させた、『記憶写真』と呼ばれるものです。飾ってあるのは、あなたの未練に関連するものばかり。……ですから、過去に戻り記憶写真を修正する力をあなたに授けます」
「……過去に、戻れる……?」
あまりにも願った奇跡が叶いすぎているため、私は務めて息を吸って吐いて、心にブレーキをかける。
「この記憶写真には不思議な力がありましてね、現世に矛盾がなきように配慮されながら、未来が上書きされます」
「えっ! あ、じゃあ、妹と、夫を……」
初めの威勢と反して、声はどんどん張りがなくなり萎んでしまう。
この後に及んで、私は。
閉じてしまった唇を噛めば、苦い血の味がした。
「ただ、過去を修正したことにより、どのような写真に変わるのか未知数です。場合によっては、あなたの願いと相反する未来が訪れる可能性があります。ご説明させてもらってよろしいですか?」
「お願い、します」
震えた私の声に反応してくれたのか、猫ちゃんは私の足元まで来て、ペタンと座り込んでくれた。
支配人さんは開けたドアを静かに閉め、手を前方で合わせたかと思えば、深々と頭を下げてくれた。
「……ありがとうございます」
そんな労ってもらえるほどの人生を、私は生きてこれたのだろうか?
「幸せな人生、でしたか?」
不意に過った悲観的な思いを汲み取ってくれたような言葉が優しすぎて、私の胸はどんどんと熱いものが詰まっていく。
「はい、幸せ……でした。最期は家族に囲まれて、看取ってもらえて……」
最後の写真はベッドで眠る私に、夫、娘二人、両親、妹、みんなに囲まれていた。
力失くした私の手を握ってくれ、頭を撫でてくれ、声をかけ続けてくれた。
その温かさも、優しさも、私の中で残っている。自分が死んだ時に泣いてくれる人がいてくれるなんて、人生で一番幸せなことだから。
「しかし、あなたには悔いがあるようですが……?」
全てを見通した目はあまりにも真っ直ぐで、気付けば上げていた口角が下がり、力無く息が溢れていた。
「それは……。だって、それは。私にとっては幸せな終わり方だったけど、残された家族は? あの人はこれから一人親として責任を果たさないといけないし、椿と柚花はまだ四歳と二歳で母親が必要な年頃。澪は責任感ある子だから自分の人生を投げ出して、これからも家族の為に生きてしまう。だから、それが……、苦しくって……」
気付けば涙声になっていて、俯いた目からは熱いものが溢れてきて、強く目を閉じる。
そんなこと言われても困るだろうと、しゃくり上げる息遣いを抑えて大きく息を吸って吐くも、喉の奥がどんどんと詰まっていく。
さっき逸らしてしまった写真を直視すると、そこには俯き口元を抑えボロボロと泣く夫に、そんな曲がった背中を摩ってくれている、細く長い手。その先には目を閉じ、唇を強く噛み締めている妹の澪が写っていていた。
おそらく余命宣告を受けて、最後の思い出にと自宅に帰って来た日。私がリビング隣の和室で眠っていた時に行われたやり取りと思われる。
私の前では絶対に涙を見せなかった夫。そっか、澪の前では泣いてたんだ。
あの人を支えられるのは澪。これからを支えられるのも。でも、その形は……。
「それが、あなたの未練ですか?」
あんな八つ当たりみたいな言い方してしまったのに、支配人さんはただ私の話を頷いて聞いてくれ、私の心に的確な言葉を返してくれる。
だから私は、小さく頷くことが出来たのだろう。
「ここに収められているのは、あなたの記憶を現像化させた、『記憶写真』と呼ばれるものです。飾ってあるのは、あなたの未練に関連するものばかり。……ですから、過去に戻り記憶写真を修正する力をあなたに授けます」
「……過去に、戻れる……?」
あまりにも願った奇跡が叶いすぎているため、私は務めて息を吸って吐いて、心にブレーキをかける。
「この記憶写真には不思議な力がありましてね、現世に矛盾がなきように配慮されながら、未来が上書きされます」
「えっ! あ、じゃあ、妹と、夫を……」
初めの威勢と反して、声はどんどん張りがなくなり萎んでしまう。
この後に及んで、私は。
閉じてしまった唇を噛めば、苦い血の味がした。
「ただ、過去を修正したことにより、どのような写真に変わるのか未知数です。場合によっては、あなたの願いと相反する未来が訪れる可能性があります。ご説明させてもらってよろしいですか?」
「お願い、します」
震えた私の声に反応してくれたのか、猫ちゃんは私の足元まで来て、ペタンと座り込んでくれた。



