さよならの記憶写真館

「……りん、か……ん」
 体を小さく揺すぶられる感覚に目を開けると私はまたソファで横になっていて、目の前には黒い毛並みが綺麗に揃っている黒猫がいた。
「……し、ろ?」
 まただ。この見た目なのに、白だなんて。

「良かったニャア〜、呼びかけても返事がニャクて危ないところだったニャ」
「……危ない?」
「もう少しで魂が砕けそうだったニャア」
「え!」
 やっぱりあの亀裂が入る音は魂に傷がいっている音で、危なかったんだ。

「クロちゃんが助けてくれたの?」
「支配人だニャ。力を使い過ぎたみたいで、今は休んでるニャア」
「……あ、そうなんだ」
「ニャニャ! 違うニャ、支配人は体力がないだけだニャ! 毎日ネコパンチをやって、力付けたらいいニャ!」
 私に気を使わせないように必死に手を動かす姿は可愛らしく、だからこそ申し訳なくなっていく。

 体を起こし指先を動かすと僅かに温もりがあり、先程まで手を握り合っていた優太は目の前にはいなくて、ただ手を握り締めることしか出来なかった。

「花梨さん、申し訳ありませんでした。彷徨える魂を守るのも私の責任ですのに、役目を果たせず……」
「いや、そんな! むしろ迷惑をかけてしまって……」
 支配人さんは私を見た途端に頭を深々と下げてきて、私はただ止めてくださいとしか言えなかった。
 
「記憶写真を確認したところ、透明になっていた写真全て、元の姿に戻っていました」
「……あ、じゃあ」
 過去修正、失敗したんだ。

「……すみません。私の行動のせいですね」
 分かっていたはずなのに、それを承知で優太と再会したのに。私の心は落胆から、またひび割れそうだった。

「魂が砕けるのは、過去を変えすぎるだけではない。心に負担を負った時もですか?」
「……あ、はい。すみません、説明不足で……」
 支配人さんはそう言ってくれているけど、おそらく私の性格を見越してのことだったのだろう。
 魂に傷がいくから、考え過ぎてはいけない。
 そんなこと事前に説明されてても、私の性格上余計に考えてしまって自分を追い込んでいっただろうから。

「花梨、写真見るニャ」
 クロちゃんの促しにより写真館に行くと、確かに未来の写真は変わっていなかった。でも。

「……えっ、これって」
 思わず声が漏れてしまった先には私が今まで過ごしていた過去が写し出されていて、四枚目の写真が変わっていた。
 優太と私が祠の前で座っている夕暮れ時の写真から、雪灯りに中で二人手を繋ぎ泣いている写真へと。
 中学二年生の初夏に再会するのは歴史上消え、中学二年生の冬に再会することに変わっただけだったから、その先の未来はそのまま繋がっていったんだ。

「私……、酷い顔してるなぁ」
「優太の目、光戻ったニャ」
「うん」

「優太にとって、花梨は必要な人なんだニャ」
「……そう……かな?」
「花梨じゃなかったら、優太はニャんでもないって本心を話さなかったニャア。だからこのまま過去を変えず、一緒にいるのも一つの選択ってやつだニャ」
 過去を変えない? つまりこのまま終わらせるということ?

 記憶写真を眺めていくと幸せな写真に溢れていたけど、最後の写真は病院のベッドに眠る私に、それを泣いて看取る優太の姿。
 優太……。

『……花梨は? 花梨は側に居てくれる?』

 ごめんね。だから、隣にいるのは私ではダメなの。
 手の感覚がまだ残っている手を握り締めて、私の傷だらけの魂に刻み込む。
 私が望んで良いのはここまでだから、次こそは。
 そんな思いで、一枚ずつ写真を見つめていく。