さよならの記憶写真館

「変わったこと、ですか? ……最近、口数が減ってきていて、年頃だからと思っていましたが……」
 おばさんが警察の相談番号に掛けて話す内容が、横で聞こえてくる。
 ……最近?
 ふっと過ぎるのは、校舎から見下ろした時に見た優太の表情。笑っているはずなのにどこか悲しげで、遠い目をしていて、唇を噛み締めていた。
 あの顔、見覚えがある。子どもの頃だ。

 優太は小さい頃から思ったことを口に出来ない性格で、特に辛いことがあっても唇を噛み締めて我慢してしまうところがある。
 私はそれに気付いていたのに、目を逸らしてしまった。
 自分を守るために。

 過去修正前、優太があの祠に来ていたのはどうしてだったのだろう? ここから見る夕陽が綺麗だからと笑っていたけど本心は?
 ……優太も、何かに追い詰められていた?

 本当は辛くて、でも弱音を吐けない性格だから、あの場所で夕陽を見ることでバランス取ってて。同じく悩んでいる私が居たから、一人じゃないってやり過ごしていたのかもしれない。
 なのに私が過去を変えたから優太は大きく息を吐き出す場所がなくなってしまって、無理に呼吸を繰り返したから苦しくなって、限界を迎えてしまったんだ。
 優太を追い込んだのは……、私だ。

『支配人さん。クロちゃん』
 言葉は発しなくても、テレパシーみたいなもので意思疎通は出来る。だから私は場違いにも、この場で思念のようなものを送っていた。

『はい』
『主人格の入れ替えをお願いできませんか?』
『以前体感された通り、人格入れ替えは花梨さんの魂に負担がかかります。私は支配人として、迷える魂を守る責任があります。……ですから、必要である理由を教えてください』
 理由? そんなの。

『過去を変えた、責任を取りたいからです』

 おそらく、このまま優太と関わらなかったら私たちの縁は切れるだろう。
 それが目的で、私は過去を変えた。
 だけどそれが優太を追い詰めることになって、あんな泣きそうな顔をしていたのに、私は気付かないフリをした。
 変わっていく未来を受け入れる覚悟がなかったからだ。

 だから、過去を変えた責任を取りたい。
 次は、私が優太を支えたい。あの日、一人泣いていた私の元に来てくれた優太みたいに。

『……覚悟、決められたようですね?』
『はい。もう変わっていく未来に目を逸らしません』

 その瞬間、グラッと地面が揺れフラついて倒れそうになったけど、なんとか足に力を入れた。

『ありがとうございます!』
 主人格の入れ替えにより一番に感じたのは真冬の寒さで、帰って来てから着替えていないセーラー服では玄関の寒さが滲みてくる。
 だけど、そんな寒さに怯んでいる場合じゃない。行かないと。
 電話を続けているおばさんと母の横を通り過ぎ、玄関ドアを開ければ一面が真っ白だった。雪だ。

「おばさん。優太が必ず帰れるようにします」
「……え? って、花梨ちゃん! 待って!」
「待ちなさい、花梨!」
 おばさんやお母さんが呼び止めるのも仕方がない。だって私は上着も長靴も履かず、制服のまま家を飛び出してしまったのだから。
 引き返そうかと一瞬足を止めたけど、すぐにまた駆け出していく。今戻ったら、引き止められるって分かってるから。