さよならの記憶写真館

 中学二年生の冬。濡れ着をかけられた証拠を由衣に突きつけたことで何とか彼女との縁は切れたけど、戻したいと願った世界は取り返せなかった。

『あいつ、ホント性格悪いからねぇ。マジ、気ぃ付けて』
 その言葉は私の先を通り抜けて、別の人物に刺さっていく。由衣だ。

『絶対ヒミツねって約束したこと、フツーにバラされたしー』
『すぐディスってくるし』
『ウソばっか吐くしねー』
 二年生が一年生に注意喚起するようにみせかけて、実際は由衣へ直接的に悪口を伝える。
 私も同じことをされていた時期があり、それを目の当たりにした時、悪寒が走った。

『米田さんも、そう思うよねぇ?』
 突然振られた話に、体がビクンと跳ねる。
 えっ? あれ? 私のこと、無視してなかったっけ?
 ドクン、ドクンと鳴る心臓に、美術室に付いてある暖房が暑苦しく、私は何も答えず一人準備室で絵を描き始める。

『いい気味って思ってるでしょ?』
 一人でいる私に声を掛けてきたのは由衣で、以前より明らかに憔悴した顔をしていていた。

『……そんなことないよ』
『ダルっ、そうゆうところ鼻に付くんだよねぇ』
 途端に私に向ける目力は強くなり、それがこの嫌がらせの理由だったんだと察せられた。

『勝ったと思わないでよね?』
 それが由衣と交わした最後の会話で、それから美術部を辞めて、次は卓球部に行ったみたい。
 その後も色々と噂話を聞くこともあったけど、心底どうでも良かった。
 誰かを叩いて結ばれた絆なんて、脆くて呆気ないもの。私という悪者がいなくなれば、破綻するのは当然だったのかもしれない。

 いい気味って思ってるでしょ?
 ……本気で思ってないよ。そんなふうに思えるほど、私の心は救われなかったから。

『疑ってごめん』
 無視された子たちからそう言われていたら、私はどれほど救われていたのだろうか。

『由衣ちゃん、そうゆうのやめてって言ったよね? ごめん、もう仲良く出来ないから』
 こんな感じに、本人にハッキリ言ってくれたら、私は美術部の子たちを憧れたままでいられたのに。
 みんな、この時には気付いたよね? 私が濡れ衣かけられたこと。
 由衣がそうゆう性格だって気付いたから、美術部から追い出そうとしたんでしょう?
 関係なかった一年生にまで悪口を言いふらすという、陰湿なやり方で。

 それを目の当たりにした時、憧れていた青色は一気に霞んで見えて、私の世界はモノクロのまま戻らなかった。
 あ、元には戻らないんだ。
 そう過った瞬間、闘った末に何も残らなかったんだと悟った。