さよならの記憶写真館

 ピクッ。
 不快な痙攣により、瞼を開いた。
 いつの間にか、ベッドで眠ってしまったようだ。

「……はぁ」
 力無い溜息と共にベッドから起き上がった私は、母の「ご飯ー!」という呼び声に何でもないように「はーい」と返事をし、真っ暗な部屋の電気を付ける。
 いつもはハンガーに釣る制服をカーペットに脱ぎ散らかしたまま、慣れた手付きでラフなTシャツとジーパンの部屋着へと着替えていく。
 ……私の意思とは反して。

 えっ、ちょ! 待って! 待ってー!
 自分の体をコントロール出来ないことに困惑しつつ、勝手に部屋を出て行こうとする自分に、お願い止まって! と叫び続ける。

『花梨さん、落ち着いてください。本来の持ち主に体を返しただけです』
『……支配人、さん?』
 パニックになっていた私は、穏やかな声色によって落ち着いていく。
 体を十四歳の私に返した。それは、つまり。

『過去修正出来ました。優太さんと花梨さんが祠の前で座っている写真は、消失しました』

 ──あの日の思い出は消えた。……違う、私が握り潰したんだ。
 途端に魂の奥底からひび割れたようは痛みがきて、ピキピキと音が聞こえたような気がした。
 痛っ! え、なに、この音?
 確か前にもあった。一体、何が?

『とにかく、今は少し休むニャ。主人格の入れ替えは魂がとっても疲れるニャアよ』
 確かに頭痛の時みたいに波打つような痛みが襲ってきて、負担になっているのは明らかだった。
 今、次の場面に行くと、私の魂に負担がいくからと、この時間に停滞することになった。

 十四歳の私は何でもない顔をしながらご飯を食べて、お風呂に入って、部屋に戻って、ベッドに潜って。本当に損な性格だなと思いつつ、そんな自分をただ傍観することしか出来なかった。

 眠れないよね。変な時間に寝てしまってごめんね、十四歳の私。
 未来の私が行動を変えることで、過去の自分を苦しめている。
 本来なら、美術室を飛び出した私はあの祠で優太と再会して心救われ、お母さんは先生から事情を聞いた上で「花梨を信じてる」と言ってくれ、お父さんは顧問の先生と話をすると言ってくれ、澪は美術部の一年生に話を聞いてくると言ってくれた。
 誰も味方はいないと思っていたけど、私を信じて守ろうとしてくれる人がこれだけいるのだと気付いた私は、自分で闘うことが出来たんだ。
 なのにその機会すら、自ら潰してしまうことになるなんて。
 ごめんね、大人の私が足を引っ張ることになるなんて。
 あなたを傷付けることになるなんて。