クフゥ。
目を閉じていても感じ取れる体温に、小さな息遣い。
どこか懐かしくて、心地よくて、温かくて。
心の奥で絡まっていた糸が、僅かに解けていくような感覚に包まれていく。
ゆっくり瞼を開くと視界に入ってきたのは、黒くて、柔らかそうな毛並みをしていて、目を細めて「ニャア」と可愛らしい声を出す黒猫だった。
「あ……れ? しろ……」
咄嗟に出た声は珍しく掠れていなくて、喉が詰まる感覚もない。
視線を戻した先に広がるブラウン色の天井は病院の白いものではなく、六畳ほどと思われる部屋には間接照明となる木目の置き型ライトしかなく、私は暖色のソファで横になっているみたい。
どうして私は知らない場所で眠っていたのだろう?
「確認してみたら良いニャ」
「え? ……あ、そうだね」
猫が喋るなんてありえないことが目の前で起きていても、どこか受け入れている自分がいる。絶対自力で起き上がれるわけないのに久しぶりに両膝を曲げ、腕とお腹に力を入れたら、願っていた奇跡はあまりにも簡単に起きてくれた。
これ、本当に私の体? そう思うぐらいにあまりにも軽くて、繋がる線はなくて、息が楽で。
……嬉しいけど、どこか悲しさが襲ってきた。
飴色に包まれた、昔ながらのレトロな雰囲気。
間接照明により照らされた部屋は温かい印象で、あてもなく歩き回ると、不意に感じる視線。
目の前には、化粧はしているけど明らかに不健康な顔付きに、お気に入りだった黒のワンピースは着ているのではなく、着せられている感を隠せていない女性が立っていた。姿見に映った、私だ。
呆然と立ち尽くす私の足元で、黒猫がチリンチリンと首輪の鈴を鳴らして柔らかな毛を押し付けてくる。
颯爽と歩いていくのは閉ざされた木製のドア前で、手でコイコイとすれば扉がキィィと音を立てて開く。
「ニャア」
まるで私を招き入れるように声を掛けてくれ、ズレていた髪を直してその後に付いて行く。
部屋を覗き込むと、広がるのは先ほどと同じ飴色の内装に壁中に貼られた額縁。
そこに入っているのは写真で、そこには乳児期、幼児期、学齢期、青年期、成人期と続き、それはまるでアルバムの中身のようだった。
「これって……、私?」
平時なら動揺し、この部屋より出ていくだろう。だけど記憶が戻りつつある私はただ溜息を吐き、部屋をぼんやりと眺める。
これは猫ちゃんがくれた、最後のプレゼントなんだ。
そんな思いで今までの人生を振り返るように、息遣いまで聞こえてきそうな鮮明に写し出されている写真を順番に眺めていく。
目を閉じていても感じ取れる体温に、小さな息遣い。
どこか懐かしくて、心地よくて、温かくて。
心の奥で絡まっていた糸が、僅かに解けていくような感覚に包まれていく。
ゆっくり瞼を開くと視界に入ってきたのは、黒くて、柔らかそうな毛並みをしていて、目を細めて「ニャア」と可愛らしい声を出す黒猫だった。
「あ……れ? しろ……」
咄嗟に出た声は珍しく掠れていなくて、喉が詰まる感覚もない。
視線を戻した先に広がるブラウン色の天井は病院の白いものではなく、六畳ほどと思われる部屋には間接照明となる木目の置き型ライトしかなく、私は暖色のソファで横になっているみたい。
どうして私は知らない場所で眠っていたのだろう?
「確認してみたら良いニャ」
「え? ……あ、そうだね」
猫が喋るなんてありえないことが目の前で起きていても、どこか受け入れている自分がいる。絶対自力で起き上がれるわけないのに久しぶりに両膝を曲げ、腕とお腹に力を入れたら、願っていた奇跡はあまりにも簡単に起きてくれた。
これ、本当に私の体? そう思うぐらいにあまりにも軽くて、繋がる線はなくて、息が楽で。
……嬉しいけど、どこか悲しさが襲ってきた。
飴色に包まれた、昔ながらのレトロな雰囲気。
間接照明により照らされた部屋は温かい印象で、あてもなく歩き回ると、不意に感じる視線。
目の前には、化粧はしているけど明らかに不健康な顔付きに、お気に入りだった黒のワンピースは着ているのではなく、着せられている感を隠せていない女性が立っていた。姿見に映った、私だ。
呆然と立ち尽くす私の足元で、黒猫がチリンチリンと首輪の鈴を鳴らして柔らかな毛を押し付けてくる。
颯爽と歩いていくのは閉ざされた木製のドア前で、手でコイコイとすれば扉がキィィと音を立てて開く。
「ニャア」
まるで私を招き入れるように声を掛けてくれ、ズレていた髪を直してその後に付いて行く。
部屋を覗き込むと、広がるのは先ほどと同じ飴色の内装に壁中に貼られた額縁。
そこに入っているのは写真で、そこには乳児期、幼児期、学齢期、青年期、成人期と続き、それはまるでアルバムの中身のようだった。
「これって……、私?」
平時なら動揺し、この部屋より出ていくだろう。だけど記憶が戻りつつある私はただ溜息を吐き、部屋をぼんやりと眺める。
これは猫ちゃんがくれた、最後のプレゼントなんだ。
そんな思いで今までの人生を振り返るように、息遣いまで聞こえてきそうな鮮明に写し出されている写真を順番に眺めていく。



