さよならの記憶写真館

 祠に続く山道が、桜色に彩られる頃。
 小学校を卒業した澪と優太は、中学校に入学してきた。
 それは登下校の時間が同じになるということで、それが分かっていた私は早々に対応をしていた。
 美術部は二年生から、自主的に朝の活動をして良いと決まっていて、私は早速その決まりを活用していた。
 少しでもデッサンがしたい。そんな理由をつけて。

 朝は手が動かないんじゃないかと心配していたけど、むしろ集中して、鉛筆とスケッチブック片手に線を描いていく。
 時間的に朝から絵の具は使えないからデッサンのみだけど、向き合って描く石膏像を眺めながら、眉、目、口元という表情によって変わる部分をより観察し、一本、一本の線を繋いでいく。
 穏やかな顔。私も、こうなれたら良いのにな。

 澪は期待の新人だと、陸上部で騒がれていることとか。その姉が、私だと分かった時の周りの反応とか。美術室の窓から見える、二人が並んで歩く姿があまりにも慣れ親しんでいて胸がざわついたりとか。
 その度に私は崩れそうな顔を隠し、笑顔の仮面を被っていた。
 だって、澪の姉なんだから。

 より息苦しくなるであろう学校で、見つけたもう一つの安らぎの空間。生徒が居ない、美術準備室。
 絵を描いている時だけは、ここが学校だということを忘れて、目の前のことに集中出来る。

 ピピピピ、ピピピピ。
「……あ、時間」
 絵の世界に入り込んでいた私は一瞬で現実に戻り、イガイガとした喉奥から漏れる溜息は重くて深い。
 スケッチブックと鉛筆を部員用に割り振られているロッカーに入れ、美術準備室の鍵を閉める。
 気付けば鍵を強く握り締めていて、気持ち的にはずっと美術準備室に篭っていたかった。なぜなら。

「花凛ー! おっはよー!」
「おはよう」
 二年生の教室がある三階に上がると、そこにいたのは由衣で、共に五組の教室へと入っていく。

「もー! 本当にいつも遅いんだから!」
「ごめん、ごめん」
「生活習慣、悪いんじゃないの?」
 その後に続く私へのダメ出しを、否定せず「うんうん」と聞いて、「確かにー」と笑ってみせる。

 二年生になり、由衣と同じクラスになった。
 確かに色々言ってくることもあるけど、なんだかんだでいつも心配してくれるし、悪い子ではない。ただ、思ったことをハッキリ言ってしまうだけで。
 だけど私は、一人で朝の活動していたことを言わなかったし、絶対に言おうとしなかった。
 ……今思うと、そう思うことでバランスを取っていたのだと思う。