さよならの記憶写真館

 パシャ。
 美術室にいた場面からまた切り替わったようで、目の前には教室の机に、懐かしいゆるいクマのキャラクター筆箱に、国語の教科書が置かれてあり、それを引き出しに片付けていた。
 中学一年生と書いてある。つまりここは私が過去修正したい中学二年生の初夏じゃなくて、記憶写真が私に見せたいと思っている場面ということ?
 記憶写真が何を伝えようとしてくれているかは分からない。だけど支配人さんが言う通り、彼女の存在がキッカケで優太と再会しているのだから、過去修正に大きな意味があるのかもしれない。
 だから傍観するしかない、過去の私を。
 思い出したくない、あの記憶を。

「花梨ー! 遊びにきたよぉー!」
「由衣」
 俯いていた顔を上げると目の前には由衣がいて、魂の奥がズキンと痛くなったような気がした。
 まさか、死んでまでこの目に苦しめられるなんて。
 もし来世と呼ばれるものが本当にあるなら、彼女とは絶対関わらない人生がいいな。
 そう思うほど、私は彼女を嫌悪していた。

 気を取り直して現状把握を始めると、教室前方には懐かしい石油ストーブがあって、黒板には11月24日(月)と書かれてある。掛け時計は十時半過ぎていたから、二時間目が終わった中休みと思われる。
 そういえば、この頃から一緒にいたんだっけ?
 彼女とは違うクラスだったけど、昼休みだけでなく授業の十分休みの間も遊びにきてくれるようになっていたと記憶している。
 仲良くなったキッカケは、私が一人残って絵を描いていた時だった。
 入部当時は他の部員の子たちと美術室で活動していたようだったけど、二週間ほどで私がいる美術準備室の方に来るようになって一緒に絵を描くようになった。
 活動時間が終わり、一緒に片付けや途中まで帰るようになって、こうやってクラスまで遊びに来てくれるようになった。
 美術部の子たちが仲間なら、由衣は友達と呼べる関係なんだろう。……本気でそう信じていたこともあった。

「へぇー、妹がいるんだぁ。小学生? 写真みせてよ!」
「うん。今、小六でね。えーと」
 当時はスマホなんてなくスライド式の携帯電話が流行っていて、慣れた手付きでポチポチといじると、すぐ出てくる家族写真。
 他は空や花とかの風景ばかりで、友達が写ってない中学生らしからぬ寂しい携帯だった。
 これから由衣との写真を増やしていけたら良いな。
 そんなふうに思ったことも、あったのにね。

 画面に映るのは、五十代前半の両親。まだトラック運転手の現役で頼もしい父に、スーパーのフルパートで働く若々しい母。
 周りの父母より少し年齢を重ねているけど、私たち姉妹にとっての自慢の両親。
 そんな二人に囲まれるように写っているのは私たち姉妹で、澪は既に母や私より背が高く、足が細くて長かった。

「うわあ、可愛い! スタイル良いね、モデルみたい!」
「そうなの。陸上やってるから食事も徹底してて、オシャレだから服装とかも……」
「ふうん。って言うか、花梨と全然似てないよねぇ〜?」
 私の顔をチラリと見たかと思えば、息を転がすようにふふっとした笑みが溢れていた。

「……あ。うん、そうなんだー!」
 彼女に合わせて口元を上げて、笑い声を張り上げるけど、なんか息は苦しくて心臓がやたら響いてくる感覚が蘇ってくる。
 彼女は気さくで話しやすいけど、何故か一緒にいると胸に針がチクチクと刺さるような痛みを感じることがあって、時々息がしにくいことがあった。
 だけど私は、この心のモヤモヤに気づかないフリをしていた。悪気はないから、そうゆう子だから、軽口言うぐらいに心を許してくれている。
 そう自分に言い聞かせて、無理に納得させる毎日だった。
 だからこそ改めて自分の人生を振り返ると、今言われた言葉は今後の人生に影響を与えた出来事だったと分かる。
 人と比べる呪いにかかったのは、この頃からだった。

 この時に彼女の違和感に気付いていたら、私は大切なものを失わなくて済んだのかな?
 この先に起こる出来事も変えたいと願ってしまう私は、どれほどわがままなのだろうか。