心が読める私と秘密を知った彼

 一人になってしまったけど、大丈夫。
 二人はかなり頑張ってくれていたみたいで、仕込みは出来ている。
 交代の人が来るまでに、これを使えば間に合うから。

 作業を続けて十分。
 私の額には、汗が滲んでいた。
 どんどん減っていく刻んだキャベツに、それに反比例して増えていく人。
 今作った分を詰めても、並んでいる人全員には行き渡らないだろう。
 そしたら材料がなく、キャベツを刻むところから始めないといけない。
 そこから焼き始めたら、時間がかかり過ぎる。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 誰か呼ぶにも、私はクラスメイトの電話番号を知らない。
 一人だから、誰かを呼びにいけない。
 とにかく、焼かないと!
 あ、でもキャベツがなくなる!
 気付けば私の頭は色々な考えでいっぱいになり、パニック状態だった。

「すみません。今、準備しているので待ってもらえませんか?」
 しっかりした敬語。だけど、その声は聞き覚えがある。その声は。
 顔を上げると、そこに居たのはやっぱり。

「長谷川くん」
「俺が焼くから、お前はキャベツを刻め! 大丈夫、二人いたらなんとかなるから」
「うん」
 私が材料を刻み始めていると、横で長谷川くんが目にも止まらない手捌きで焼きそばを焼いていく。
 毎日、料理しているから分かる。彼は手慣れだと。
 こうやって繰り返すこと数回。先程までの混雑は嘘のようになくなり、一息吐けるぐらいまでになった。

「ありがとう。来てくれて」
「別に。担当の女子達に言われただけだから」
「そっか。助かったよ」
「たまたまだし」
「段取りが凄くいいねー。バイトとか、家事とかやってるんじゃないの?」
「はぁー? まぐれだし!」
「料理はそんなに簡単じゃないよ?」
「うっせー!」
 話しながら仕込みのキャベツを刻んでいると、いつの間にか交代時間になっていて、クラスメイトが来てくれた。
 長谷川くんが手伝っている姿に驚いているようだったけど、次の瞬間には頬を緩めていた。
 彼の優しさが分かってくれたら良いな。
 そう思いながら、私は保健室に向かった。

「大丈夫だった?」
「さっきはごめんね。もう痛くないよ。先生も大丈夫だって。それより、店は?」
「良かったー。次に繋げたよ。長谷川くんに応援頼んでくれたんだよね? 私だけなら無理だったよ」

 二人は、顔を見合わせて首を横に振る。
「……え?」
 その返事に、私は今までの違和感にようやく気付く。
 そっか。そうだったんだ。
 だからあの時、体調悪いフリをしたんだね。
 私を言いなりにさせてきたんだね。
 自身の秘密を告げようとした私の口を塞いでくれたんだね。
 誰も聞いていないと思っていたけど、それは違った。