見世蔵のつつじ姫 〜異能なし令嬢は、東宮さまに溺愛される〜

 舞踏会のその日、約束通りに東風(こち)は現れた。

 黒い燕尾服(テールコート)に、白い胸元。
 立襟の襯衣(シャツ)と白い蝶結びが、夜会服(ホワイトタイ)として寸分なく整っている。

 立ち姿に無駄はなく、ただ其処(そこ)に居るだけで、空気の輪郭が変わった。

「お迎えに上がりました」

 定型の言い回しに留まらぬ含みが、言葉の奥に差し込んでいる。
 此方(こちら)を捉える(ひとみ)は揺るがず、選び取る意志をまっすぐに示していた。

「最初と最後と――それに、円舞曲(ワルツ)は私と踊るのですよ」

 有無を言わせぬ響きだった。

 紬路(つつじ)は一瞬だけ息を止め、ふと東風(こち)の装いに目を留める。
 まるで紬路(つつじ)夜会用(イヴニング)洋礼装(ドレス)と一対のように見えた。

 色も質も、光の拾い方までもが、何処(どこ)か呼応している。
 偶然にしては出来すぎているが、佐伯(さえき)(おう)の紹介した洋装仕立屋(ドレスメーカー)ならば、初めから二人を揃いの一対として見立てたのだろう。

 紬路(つつじ)洋礼装(ドレス)は、選び抜いた白だった。
 光を弾くのではなく、内側に含んで(ゆる)やかに返す白。
 胸(もと)は飾りを削ぎ、身体の線だけで美を成している。

 ただ一つ、白い躑躅(つつじ)の花だけが控えめに置かれていた。
 薄絹を幾重にも重ねた小さな花は、色で主張せず、空気を含んで(ほど)けそうに軽い。

 腰から下へ流れる布は、歩みに遅れず、先走りもしない。
 動けば光を含み、留まれば静かにその場へ馴染んだ。

 白は誤魔化しが利かない。
 だからこそ、この仏蘭西(フランス)朱子織(サテン)に全てを賭けた。

 東風(こち)の視線が、一瞬だけその胸(もと)の白の上を滑る。
 黒い双眸が、満足げにきらりと光った。

「……見事です」