見世蔵のつつじ姫 〜異能なし令嬢は、東宮さまに溺愛される〜

「それで、各家がこぞって東宮(とうぐう)さまに(さき)()いの后妃をお輿入れしようと画策しても」
「きゃーっ! きゃーっ!」
「……誰か、この子を止めてくれない?」

 文子(あやこ)が、(あき)れたように肩を落とした。
 紬路(つつじ)は、もう手遅れよ、と目を見合わせる。

 志乃はすっかり、自分好みの物語を見つけた顔だった。
 友人の行く末に関わる話だというのに、半分はもう貸本の続きを読む気でいるらしい。

「あーあァ。紬路(つつじ)なら、ばばーんと筆頭更衣として、立派に悪役令嬢の座を(つと)め上げられただろうになあァ。見たかったなァ。……でも、破滅って()えちゃったのか」

 このところ都では、悪役令嬢奇譚(きたん)が流行している。
 興味の薄い(はず)の志乃でさえも、一通り読んでいた。
 (もっと)も、志乃の場合、恋よりも呪いや断罪や逆転劇の方に目を輝かせて、ではあった。

「まだ御年(おんとし)十九であらせられるのですもの。そう急ぐこともあるまいと、見合わせておいでなのでしょうね」

 文子(あやこ)が、落ち着き払って話を戻した。
 志乃の妄想を軽く()なしながら、筋だけは取り落とさない辺りは、さすが文子(あやこ)らしかった。

「そこがまた、いいのよー! ねえ、あの鑑賞会(かんしょうえ)って、やっぱり新しい皇子(プリンス)お妃(プリンセス)選びだったんじゃない? 渡来の本にもよくあるでしょ」

 既に幾度も語られてきた話ではある。
 三人はよく本を貸し借りしており、ものの見方も、夢想の方向も、少なからず似通っていた。

「そうね。お父さまの民部省でも、そのような話は耳にしたわ」
「わー、やっぱり!」
(もう)けの君とも、春宮(とうぐう)とも申すでしょう。春の宴にお妃選びはお相応しいわね」

 水を得た魚のように、志乃は(ひとみ)(きら)めかせた。
 この手の話題が、好きでたまらないのだ。

 宮筋には、とある(・・・)種類の色恋が多い。
 そう聞いて以来、志乃は禁色(きんじき)という言葉だけで卒倒しかねないほどだ。

 ただし、志乃自身が入内(じゅだい)を望んでいるわけではない。
 美しい皇子(プリンス)を、少しばかり(よこしま)な愉しみを(もっ)て眺めているのである。

 絵空事(えそらごと)と現実の区別だけは、辛うじてついているらしいが、果たしてお妃を無理に選ばされるという境遇に妄想を抱いているのだった。