幼い姉の異能は、あまりにも鮮やかだった。
人の言葉をほんの一撫でで、別の流れへと導いてしまう。
今よりも、余程強かった。
否、予祝の結詞と今では呼ばれるその異能は、導くというより――最初からそうなる筈だったかのように結果を自然に整えてしまう、と言った方が近いのかもしれない。
そういうものを異能と呼ぶのだと、紬路は後から知った。
そして、――紬路は十六になっても、その異能が発現しなかった。
その日も、和泉の客殿には分家の者たちが来ていた。
磨かれた板敷の端、柱の影に寄るように、紬路は控えている。
誰に命じられた訣でもないのに、いつの間にか其処だけが、自分に許された場所になっていた。
小父たちが、自分に用などないと知っていたからかもしれない。
「――こちらが、総領娘でいらして?」
「言霊姫さま――」
途切れた声でも、意味が伝わって来た。
紬路に背を向けた姉が、目の前にいるからだ。
客間には、姉の椿が先に入っていた。
屏風越しに正座した背筋を伸ばし、静かに微笑んでいる。
姉は発話を禁じられており、口を開くことはない。
だから周囲の言葉許りが、やけに燥いで、浮いて聞こえている。
紬路は、少しだけ身を乗り出した。
客間へ入って、小父さまの膝に座ったなら。
きっと笑って可愛いね、と頭を撫でて、何かをくださる。
そう思った矢先、母が此方へ下がって来て、そっと手招きした。
「あなたは、お菓子でもお上がりなさい。小父さま達が持って来てくださったの。さあ、向こうでゆっくり味わって。ね?」
急き立てるように差し出されたのは、小さな菓子だった。
幼くとも紬路には明白だった。
母は気に入った家の前でだけ、自分を呼ぶ。
姉の顔を見せられぬ代わりに、紬路の顔を見せるのだ。
この子は姉に酷似なのです。
そう言い添えるために。
見世物にしても構わないのは、わたしの方なのだ。
面倒なのだろう。
どうせ引き合いを受けるなら、異能の強い家がいい。
母から菓子を渡されたということは、この分家には利用価値がないのだ。
そして同じように。
異能のない紬路にも、誰も用はないのだ、と。
紬路はちゃんと知っていた。
人の言葉をほんの一撫でで、別の流れへと導いてしまう。
今よりも、余程強かった。
否、予祝の結詞と今では呼ばれるその異能は、導くというより――最初からそうなる筈だったかのように結果を自然に整えてしまう、と言った方が近いのかもしれない。
そういうものを異能と呼ぶのだと、紬路は後から知った。
そして、――紬路は十六になっても、その異能が発現しなかった。
その日も、和泉の客殿には分家の者たちが来ていた。
磨かれた板敷の端、柱の影に寄るように、紬路は控えている。
誰に命じられた訣でもないのに、いつの間にか其処だけが、自分に許された場所になっていた。
小父たちが、自分に用などないと知っていたからかもしれない。
「――こちらが、総領娘でいらして?」
「言霊姫さま――」
途切れた声でも、意味が伝わって来た。
紬路に背を向けた姉が、目の前にいるからだ。
客間には、姉の椿が先に入っていた。
屏風越しに正座した背筋を伸ばし、静かに微笑んでいる。
姉は発話を禁じられており、口を開くことはない。
だから周囲の言葉許りが、やけに燥いで、浮いて聞こえている。
紬路は、少しだけ身を乗り出した。
客間へ入って、小父さまの膝に座ったなら。
きっと笑って可愛いね、と頭を撫でて、何かをくださる。
そう思った矢先、母が此方へ下がって来て、そっと手招きした。
「あなたは、お菓子でもお上がりなさい。小父さま達が持って来てくださったの。さあ、向こうでゆっくり味わって。ね?」
急き立てるように差し出されたのは、小さな菓子だった。
幼くとも紬路には明白だった。
母は気に入った家の前でだけ、自分を呼ぶ。
姉の顔を見せられぬ代わりに、紬路の顔を見せるのだ。
この子は姉に酷似なのです。
そう言い添えるために。
見世物にしても構わないのは、わたしの方なのだ。
面倒なのだろう。
どうせ引き合いを受けるなら、異能の強い家がいい。
母から菓子を渡されたということは、この分家には利用価値がないのだ。
そして同じように。
異能のない紬路にも、誰も用はないのだ、と。
紬路はちゃんと知っていた。



