「肩ゴキッてなった」
「ごめんごめん、ちょっとテンション上がっちゃって」
「……ちょっと?」
「んー、だいぶ?」
——だろうな。
さっきより落ち着いたとはいえ、まだ小さく揺らされる腕。瀬野くんの表情はお手本のようなニコニコ笑顔でテンションの高さがうかがえる。でも、俺と一緒に出掛けてこんなに楽しんでくれてるなら、だいぶ嬉しいかも。
靴屋を出た後エスカレーターでさらに上の階に移動し、今は最上階いる。どんどん奥に進んでいくので、あんなに溢れかえっていたお客さんもどんどん少なくなっていった。
「瀬野くん、本当にこっちなの?」
「うん、もうちょっとで着くから」
そう言われたので黙ってついていくこと数分、着いたのは都内の大型ショッピングモールの雰囲気に合わない店だった。至る所に伸びる枝は森の中を連想させる。
枝や葉っぱに囲まれた小さな店『ピアンタ』は、ショッピングモールの最上階・最奥でひっそりと営業していた。
「これ、本物の木?」
「まさか。作り物だよ」
店内から聞こえてきた掠れた低い声に驚いて奥を見ると、入り口近くのカウンターに一人の老人が座ってこちらを見ていた。
ヨレヨレの服を着て短い白髪を雑に後ろに流し、鼻の下には短いながらも立派な髭が生えている。そんな服じゃなくもっとピシッとしたものを着ていれば、それこそファンタジー小説とかに出てくるイケおじ的な風貌だろうに。少し勿体無いと思ってしまった。
どこかアンニュイな面持ちの店主に瀬野くんが嬉しそうに駆け寄って行った。
「土井じい!」
「どいじい?」
急に出てき単語に首を傾げると、瀬野くんが振り返って説明してくれた。
「ここの店主『土井茂信』さん。あだ名は土井じい」
「あだ名じゃねぇよ、お前ら三人衆しか呼ばねぇんだから」
「三人衆——瀬野くんと長谷川くんと横井くん?」
「そうだ。その三人は小さい頃からよく一緒に来るんだよ」
独り言のつもりが、きちんと届いてしまったらしい。
土井さんは俺にそう返したあと、瀬野くんを上から下まで食い入るように眺めた。
「久しぶりだな、彰人。……そっちは初めて見る顔だな」
「あ、そ、その……はは、はじめ、まして」
「ふーん」
「ひっ……」
土井さんの視線がこちらに向いて、慌てて頭を下げる。が、急なことで心の準備が出来てなかった俺は案の定いつもの様に噛みっ噛みになってしまう。土井さんの鋭く細められた目に、ビクリと肩が震えた。
すると、瀬野くんがこちらに駆け寄ってきて俺の肩を優しく抱いてくれた。その手の温度に安心して、フッと肩の力が抜ける。瀬野くんは俺の様子を確認して、それから土井さんに視線を移した。
「土井じい、原田を驚かせないで。この子は原田優輝、俺のクラスメイトで友達な。人見知りだからそんな睨まないであげて」
「……彰人が友人を連れてくるとはな。驚かせて悪かった。土井だ、小さな店だが適当に見てってくれ」
「は、はい。ありがとう、ございます……」
入り口の横にあるカウンターを抜けて店内に入る。
薄暗いそこには、沢山の小物が売っていた。木でできた棚の上に小さな白い皿が置いてあり、その上に商品が飾られている。
俺はぐるりと辺りを見渡し、近くにあった透明な石のついたキーホルダーを一つ手に取ってみた。上から吊るされたランプに透かすと石の中心がキラキラと煌めく。
「綺麗……」
俺の様子に気づいたのか、別の場所にいた瀬野くんがいつの間にか後ろに来ていた。ポンッと肩に手が置かれる。
「ここにあるのは全部土井じいの手作りなんだよ。だからお値段もすこーしお高めだけどね」
「……少し?」
瀬野くんの言葉を聞いて値札に目を落とすと、ゼロがなんか、普通のキーホルダーより多い気がした。
手に取ったキーホルダーは特段大きいわけでもなく、なんなら少し小さいくらいだった。皮でできたタッセルチャームの上に小さな石が飾られている、手のひらより少し小さいサイズのキーホルダー。
——こ、これでこの値段か……!
ゼロ三つの紙幣が何枚もいる値段に頭がクラリとする。
——俺、絶対場違いだ!
傷つけないよう、そっとキーホルダーを皿の上に戻す。もし壊して弁償なんてことになったら、横井の誕プレを買えなくなってしまう。
——うん、大人しくしておこう。落としたり壊したりしたら大変なことになる。
鞄をギュッとお腹の前で抱え、瀬野くんの後ろにそっと回る。
「原田?」
「お、俺、瀬野くんの後ろついて行くね。大人しくしとく」
「他の見ててもいいんだよ?」
瀬野くんの言葉に頭を横に振る。
「こ、壊したりとかしたらいけないし……」
「大丈夫、土井じいは怒らないよ。でもまあ、原田がそう言うなら見てもらおうかな」
くしゃっと優しく頭を撫でられる。
突然のことに呆然としているとサッと手は離れていき、「こっち」と言いながら瀬野くんが奥へ歩いて行ってしまう。
「ごめんごめん、ちょっとテンション上がっちゃって」
「……ちょっと?」
「んー、だいぶ?」
——だろうな。
さっきより落ち着いたとはいえ、まだ小さく揺らされる腕。瀬野くんの表情はお手本のようなニコニコ笑顔でテンションの高さがうかがえる。でも、俺と一緒に出掛けてこんなに楽しんでくれてるなら、だいぶ嬉しいかも。
靴屋を出た後エスカレーターでさらに上の階に移動し、今は最上階いる。どんどん奥に進んでいくので、あんなに溢れかえっていたお客さんもどんどん少なくなっていった。
「瀬野くん、本当にこっちなの?」
「うん、もうちょっとで着くから」
そう言われたので黙ってついていくこと数分、着いたのは都内の大型ショッピングモールの雰囲気に合わない店だった。至る所に伸びる枝は森の中を連想させる。
枝や葉っぱに囲まれた小さな店『ピアンタ』は、ショッピングモールの最上階・最奥でひっそりと営業していた。
「これ、本物の木?」
「まさか。作り物だよ」
店内から聞こえてきた掠れた低い声に驚いて奥を見ると、入り口近くのカウンターに一人の老人が座ってこちらを見ていた。
ヨレヨレの服を着て短い白髪を雑に後ろに流し、鼻の下には短いながらも立派な髭が生えている。そんな服じゃなくもっとピシッとしたものを着ていれば、それこそファンタジー小説とかに出てくるイケおじ的な風貌だろうに。少し勿体無いと思ってしまった。
どこかアンニュイな面持ちの店主に瀬野くんが嬉しそうに駆け寄って行った。
「土井じい!」
「どいじい?」
急に出てき単語に首を傾げると、瀬野くんが振り返って説明してくれた。
「ここの店主『土井茂信』さん。あだ名は土井じい」
「あだ名じゃねぇよ、お前ら三人衆しか呼ばねぇんだから」
「三人衆——瀬野くんと長谷川くんと横井くん?」
「そうだ。その三人は小さい頃からよく一緒に来るんだよ」
独り言のつもりが、きちんと届いてしまったらしい。
土井さんは俺にそう返したあと、瀬野くんを上から下まで食い入るように眺めた。
「久しぶりだな、彰人。……そっちは初めて見る顔だな」
「あ、そ、その……はは、はじめ、まして」
「ふーん」
「ひっ……」
土井さんの視線がこちらに向いて、慌てて頭を下げる。が、急なことで心の準備が出来てなかった俺は案の定いつもの様に噛みっ噛みになってしまう。土井さんの鋭く細められた目に、ビクリと肩が震えた。
すると、瀬野くんがこちらに駆け寄ってきて俺の肩を優しく抱いてくれた。その手の温度に安心して、フッと肩の力が抜ける。瀬野くんは俺の様子を確認して、それから土井さんに視線を移した。
「土井じい、原田を驚かせないで。この子は原田優輝、俺のクラスメイトで友達な。人見知りだからそんな睨まないであげて」
「……彰人が友人を連れてくるとはな。驚かせて悪かった。土井だ、小さな店だが適当に見てってくれ」
「は、はい。ありがとう、ございます……」
入り口の横にあるカウンターを抜けて店内に入る。
薄暗いそこには、沢山の小物が売っていた。木でできた棚の上に小さな白い皿が置いてあり、その上に商品が飾られている。
俺はぐるりと辺りを見渡し、近くにあった透明な石のついたキーホルダーを一つ手に取ってみた。上から吊るされたランプに透かすと石の中心がキラキラと煌めく。
「綺麗……」
俺の様子に気づいたのか、別の場所にいた瀬野くんがいつの間にか後ろに来ていた。ポンッと肩に手が置かれる。
「ここにあるのは全部土井じいの手作りなんだよ。だからお値段もすこーしお高めだけどね」
「……少し?」
瀬野くんの言葉を聞いて値札に目を落とすと、ゼロがなんか、普通のキーホルダーより多い気がした。
手に取ったキーホルダーは特段大きいわけでもなく、なんなら少し小さいくらいだった。皮でできたタッセルチャームの上に小さな石が飾られている、手のひらより少し小さいサイズのキーホルダー。
——こ、これでこの値段か……!
ゼロ三つの紙幣が何枚もいる値段に頭がクラリとする。
——俺、絶対場違いだ!
傷つけないよう、そっとキーホルダーを皿の上に戻す。もし壊して弁償なんてことになったら、横井の誕プレを買えなくなってしまう。
——うん、大人しくしておこう。落としたり壊したりしたら大変なことになる。
鞄をギュッとお腹の前で抱え、瀬野くんの後ろにそっと回る。
「原田?」
「お、俺、瀬野くんの後ろついて行くね。大人しくしとく」
「他の見ててもいいんだよ?」
瀬野くんの言葉に頭を横に振る。
「こ、壊したりとかしたらいけないし……」
「大丈夫、土井じいは怒らないよ。でもまあ、原田がそう言うなら見てもらおうかな」
くしゃっと優しく頭を撫でられる。
突然のことに呆然としているとサッと手は離れていき、「こっち」と言いながら瀬野くんが奥へ歩いて行ってしまう。



