手を繋いだまま、混雑した駅の地下ホームを切り抜けていく。
風丘駅は都会の中心にある駅なだけあって人も多い。
普段は電車を降りてすぐに駅を出るので、見慣れない景色にキョロキョロと周りを見渡してしまう。通学で多少この人混みにも慣れたと思っていたのだが、この人通りの多さに改めて驚いてしまった。
ホームに続く地下街には様々な店が並んでいる。特に飲食店やスイーツ系のお店が多く、見えいるだけでお腹が空いてしまう。
——帰り、時間があれば寄りたいな。
時々誰かの肩にぶつかりながらも、瀬野くんと繋いでいる手だけを頼りになんとか後ろを着いて行った。
無事予定通りの電車に乗りこみ、二人でホッと息を吐いた。運よく横並びで椅子に座れたので、後ろの背もたれにそっともたれ掛かかる。
「——都会の駅、怖い」
人が多すぎて色んな人にぶつかるし、前の人の靴を踏みそうになるし。瀬野くんと手を繋いでなかったらきっとはぐれて迷子になっていた。少しの移動でぐったりしてしまった俺を、瀬野くんは心配そうに見ていた。
「お疲れ様。もうこれ一本で行けるから、後は一時間乗っとくだけだよ」
「そうなんだ。なら、座れてよかったね」
ここで椅子を確保していなかったら一時間立ちっぱなしになっていたかもしれないと考えて、ブルリと背筋が震えた。無理だ、流石に足が死ぬ。
ふと、被っていたキャップを脱がされる。見ると、瀬野くんがキャップをいそいそと自分のカバンにしまっていた。
「もう顔赤くないし、この角度からだとツバが邪魔で原田の顔が見れないから、これは回収です」
「顔って……」
「あ、また赤くなってきた。可愛い〜! やっぱりキャップ被せとこうかな。でも、そしたら原田の顔見れなくなるし——」
「赤くないから! キャップも、もう大丈夫だからっ!」
迷惑にならない程度に、小さく大声を出して反論する。瀬野くんが声を出さずにクスクスと笑った丁度その時、停車駅に着いたらしく電車内に沢山の人が乗ってきた。
俺たちの前にスーツ姿の男性がつり革を持って立つ。その男性が一瞬俺たちの間をチラリと見て、そっと視線を外した。不思議に思いさっき男性が見ていたところに視界を移すと、恋人つなぎをした俺と瀬野くんの手が目に入ってきた。そこで思い出す。
——そういえば、手繋いだままだ! しかも恋人つなぎ。
俺の右手は、未だに瀬野くんの左手に確保されている。離れようと手を引いてみたりしたのだが、瀬野くんの指はびくともしない。なんなら、握られる手に更に力が込められて少し痛いくらいだ。
「瀬野くん」
「なに?」
「その、手……電車だからさ」
「うん」
瀬野くんは頷くだけで、手の力を緩めはしない。
「み、見られるから」
「別に、こんなの誰も気にしないって」
気にする気にしない抜きに、俺が恥ずかしいんだが。
俺がなんとか引き離そうと手を軽く振ったり指で瀬野くんの手の甲をトントンと叩いたりしたのだが、一向に離れる気配はなかった。なんなら、「まあまあ」と言いなだめられる始末だ。
しばらくの葛藤の末、俺は諦めてはぁ、とため息を吐いた。
今日の瀬野くんはなんだかおかしい。いつもより頑固な気がする。普段の瀬野くんなら、あれこれ言いながらも最終的にはパッと手を離してくれるのに。なぜ今日はこんなに強引で頑固なんだろうか。
不満を伝えようと少しジト目で見上げると、パッと瀬野くんと目が合った。
目尻を下げながらこちらを見下ろすその視線に、どうしてだか今すぐ逃げ出したくなってしまう。
なんというか、いつもより甘いのだ。瀬野くんの視線が。
「今日の瀬野くん、なんか、いつもと違う……」
ポツリと呟くと、瀬野くんがこちらの顔を覗き込んでくる。
「そう? 二人がいないからかな」
「二人って、長谷川くんと横井くん?」
「そ。あの二人、いつも何だかんだ言って割り込んでくるからな〜。今日は原田を独り占めできるから、舞い上がってるのかも」
今日は二人きりだもんね、と耳元で囁いてくるので思わず耳を手で塞いでしまった。
耳も心もムズムズする。
——今日の瀬野くんは、頑固で強引で、なんだかずるい。
***
「そういえばさ、瀬野くんは何買おうとしてるの?」
「みなとの誕プレ?」
「そう」
候補を絞っているとは聞いているが、実際その補が何なのかは知らない。
ちなみに、長谷川はTシャツと松脂を用意してるそうだ。そこで初めて知ったのだが、横井はヴァイオリンが弾けるらしい。
ロジンというのはヴァイオリンの必需品らしく、それを弓に塗ることで摩擦を生み、綺麗な音が出る仕組みだそう。
横井が『ロジンが無くなってきた』と話していたのを覚えていたらしく、その替えを買ってあげるそうだ。
Tシャツは、『出かけた時にみなとが好きそうな服見つけたから』と言っていた。ちゃんと横井の服の趣味を知っているからこそ渡せるプレゼントだ。流石は幼馴染。
俺はどうしよう、横井の私服とか知らないしな。
瀬野くんはスマホを取り出し、何かを調べている。何回か画面をタップしたあと、そのままこちらに向けてきた。
そこには、店名の隣に候補の商品名・お店の場所がいくつか並んでいた。
なるほど、瀬野くんは俺にこれを見せるためにスマホのメモを起動していたのか。
「俺はスニーカー二つとちょっとお高めのボールペンで迷ってるんだ。スニーカーはサイズとかも見ないといけないしな」
「スニーカーかぁ」
こちらも本人の趣味を知っていないと渡せないプレゼントだ。
――ボールペンなら参考になるかも。でもちょっとお高めか〜。瀬野くんが言う「ちょっと」が本当にちょっとな
のかわからないからな。きっと三人ともお金持ちだし。
「原田は? あれから進歩あった?」
瀬野くんからの問いにフルフルと首を縦に振った。
「それが、本当に何も決まらなくて……。今日相談に乗ってもらえると、助かる」
「もちろん。俺の候補巡りに付き合ってもらうからね、それくらいお安い御用だよ」
トンっと胸を叩く瀬野くんが頼もしくて仕方がない。
「俺はたぶんすぐ決まるから、原田のプレゼント探しがメインかな。あと、ショコラ屋さんに行きたいんだよね?」
「うん。時間があれば、で大丈夫だけど……」
「せっかくここまで来たんだから、原田の行きたいところも行こう」
「あ、ありがとう」
その時、電車が目的地であるショッピングモール直通駅に着いたとアナウンスが流れてきた。
俺と瀬野くんは見合わせて席を立ち、指を絡めたまま電車を降りた。
◇◇◇
実は本日9月12日は、原田優輝くんのお誕生日!!!!!
ということで、短いですが予定前倒しで1話投稿させていただきました!
優輝、お誕生日おめでとう〜🎉
瀬野くんと長谷川の誕生日も後々公開予定ですので、どうぞ楽しみにしていてください!
皆様のおかげでBL・総合部門共に連日ランクインさせていただいております
本当にありがとうございます!
デート編はあと2.3話投稿する予定です
どうぞよろしくお願いします
☆次回第15話は9月中旬頃投稿予定です。
風丘駅は都会の中心にある駅なだけあって人も多い。
普段は電車を降りてすぐに駅を出るので、見慣れない景色にキョロキョロと周りを見渡してしまう。通学で多少この人混みにも慣れたと思っていたのだが、この人通りの多さに改めて驚いてしまった。
ホームに続く地下街には様々な店が並んでいる。特に飲食店やスイーツ系のお店が多く、見えいるだけでお腹が空いてしまう。
——帰り、時間があれば寄りたいな。
時々誰かの肩にぶつかりながらも、瀬野くんと繋いでいる手だけを頼りになんとか後ろを着いて行った。
無事予定通りの電車に乗りこみ、二人でホッと息を吐いた。運よく横並びで椅子に座れたので、後ろの背もたれにそっともたれ掛かかる。
「——都会の駅、怖い」
人が多すぎて色んな人にぶつかるし、前の人の靴を踏みそうになるし。瀬野くんと手を繋いでなかったらきっとはぐれて迷子になっていた。少しの移動でぐったりしてしまった俺を、瀬野くんは心配そうに見ていた。
「お疲れ様。もうこれ一本で行けるから、後は一時間乗っとくだけだよ」
「そうなんだ。なら、座れてよかったね」
ここで椅子を確保していなかったら一時間立ちっぱなしになっていたかもしれないと考えて、ブルリと背筋が震えた。無理だ、流石に足が死ぬ。
ふと、被っていたキャップを脱がされる。見ると、瀬野くんがキャップをいそいそと自分のカバンにしまっていた。
「もう顔赤くないし、この角度からだとツバが邪魔で原田の顔が見れないから、これは回収です」
「顔って……」
「あ、また赤くなってきた。可愛い〜! やっぱりキャップ被せとこうかな。でも、そしたら原田の顔見れなくなるし——」
「赤くないから! キャップも、もう大丈夫だからっ!」
迷惑にならない程度に、小さく大声を出して反論する。瀬野くんが声を出さずにクスクスと笑った丁度その時、停車駅に着いたらしく電車内に沢山の人が乗ってきた。
俺たちの前にスーツ姿の男性がつり革を持って立つ。その男性が一瞬俺たちの間をチラリと見て、そっと視線を外した。不思議に思いさっき男性が見ていたところに視界を移すと、恋人つなぎをした俺と瀬野くんの手が目に入ってきた。そこで思い出す。
——そういえば、手繋いだままだ! しかも恋人つなぎ。
俺の右手は、未だに瀬野くんの左手に確保されている。離れようと手を引いてみたりしたのだが、瀬野くんの指はびくともしない。なんなら、握られる手に更に力が込められて少し痛いくらいだ。
「瀬野くん」
「なに?」
「その、手……電車だからさ」
「うん」
瀬野くんは頷くだけで、手の力を緩めはしない。
「み、見られるから」
「別に、こんなの誰も気にしないって」
気にする気にしない抜きに、俺が恥ずかしいんだが。
俺がなんとか引き離そうと手を軽く振ったり指で瀬野くんの手の甲をトントンと叩いたりしたのだが、一向に離れる気配はなかった。なんなら、「まあまあ」と言いなだめられる始末だ。
しばらくの葛藤の末、俺は諦めてはぁ、とため息を吐いた。
今日の瀬野くんはなんだかおかしい。いつもより頑固な気がする。普段の瀬野くんなら、あれこれ言いながらも最終的にはパッと手を離してくれるのに。なぜ今日はこんなに強引で頑固なんだろうか。
不満を伝えようと少しジト目で見上げると、パッと瀬野くんと目が合った。
目尻を下げながらこちらを見下ろすその視線に、どうしてだか今すぐ逃げ出したくなってしまう。
なんというか、いつもより甘いのだ。瀬野くんの視線が。
「今日の瀬野くん、なんか、いつもと違う……」
ポツリと呟くと、瀬野くんがこちらの顔を覗き込んでくる。
「そう? 二人がいないからかな」
「二人って、長谷川くんと横井くん?」
「そ。あの二人、いつも何だかんだ言って割り込んでくるからな〜。今日は原田を独り占めできるから、舞い上がってるのかも」
今日は二人きりだもんね、と耳元で囁いてくるので思わず耳を手で塞いでしまった。
耳も心もムズムズする。
——今日の瀬野くんは、頑固で強引で、なんだかずるい。
***
「そういえばさ、瀬野くんは何買おうとしてるの?」
「みなとの誕プレ?」
「そう」
候補を絞っているとは聞いているが、実際その補が何なのかは知らない。
ちなみに、長谷川はTシャツと松脂を用意してるそうだ。そこで初めて知ったのだが、横井はヴァイオリンが弾けるらしい。
ロジンというのはヴァイオリンの必需品らしく、それを弓に塗ることで摩擦を生み、綺麗な音が出る仕組みだそう。
横井が『ロジンが無くなってきた』と話していたのを覚えていたらしく、その替えを買ってあげるそうだ。
Tシャツは、『出かけた時にみなとが好きそうな服見つけたから』と言っていた。ちゃんと横井の服の趣味を知っているからこそ渡せるプレゼントだ。流石は幼馴染。
俺はどうしよう、横井の私服とか知らないしな。
瀬野くんはスマホを取り出し、何かを調べている。何回か画面をタップしたあと、そのままこちらに向けてきた。
そこには、店名の隣に候補の商品名・お店の場所がいくつか並んでいた。
なるほど、瀬野くんは俺にこれを見せるためにスマホのメモを起動していたのか。
「俺はスニーカー二つとちょっとお高めのボールペンで迷ってるんだ。スニーカーはサイズとかも見ないといけないしな」
「スニーカーかぁ」
こちらも本人の趣味を知っていないと渡せないプレゼントだ。
――ボールペンなら参考になるかも。でもちょっとお高めか〜。瀬野くんが言う「ちょっと」が本当にちょっとな
のかわからないからな。きっと三人ともお金持ちだし。
「原田は? あれから進歩あった?」
瀬野くんからの問いにフルフルと首を縦に振った。
「それが、本当に何も決まらなくて……。今日相談に乗ってもらえると、助かる」
「もちろん。俺の候補巡りに付き合ってもらうからね、それくらいお安い御用だよ」
トンっと胸を叩く瀬野くんが頼もしくて仕方がない。
「俺はたぶんすぐ決まるから、原田のプレゼント探しがメインかな。あと、ショコラ屋さんに行きたいんだよね?」
「うん。時間があれば、で大丈夫だけど……」
「せっかくここまで来たんだから、原田の行きたいところも行こう」
「あ、ありがとう」
その時、電車が目的地であるショッピングモール直通駅に着いたとアナウンスが流れてきた。
俺と瀬野くんは見合わせて席を立ち、指を絡めたまま電車を降りた。
◇◇◇
実は本日9月12日は、原田優輝くんのお誕生日!!!!!
ということで、短いですが予定前倒しで1話投稿させていただきました!
優輝、お誕生日おめでとう〜🎉
瀬野くんと長谷川の誕生日も後々公開予定ですので、どうぞ楽しみにしていてください!
皆様のおかげでBL・総合部門共に連日ランクインさせていただいております
本当にありがとうございます!
デート編はあと2.3話投稿する予定です
どうぞよろしくお願いします
☆次回第15話は9月中旬頃投稿予定です。



