駄菓子より甘い瀬野くん

【デートプラン】


「ゆうちゃーん! またね」
「はーい、気をつけて帰るんだよ」
 真っ赤な夕陽に向かって駆け出す子供達に手を振って見送る。一番忙しい山をなんとか乗り切り、ふっと息を吐いた。
 店の中に戻ると、さっきまで小学生の騒がしい声が響いていたのが嘘のように静まり返っている。
 ——しばらく暇だなぁ。
 駄菓子屋の客は主に小学生だ。夕方は鬼のように忙しいのに、日が暮れてくるとほとんど客足はなくなる。それでも、部活帰りの中高生や保育園終わりにお母さんとやってくる子もいるのであまり気は抜けない。
 
 人っ子一人いなくなり手持ち無沙汰になった俺は、レジの椅子に腰掛け正面にある入口をぼーっと眺めた。オレンジの光がスッと伸び、カラスの鳴く声だけが遠くから聞こえてくる。その静けさに、バイト中だというのにだんだんと瞼が落ちてきた。
 ——だ、めだ……。
 頭がガクンと揺れたその瞬間、ポケットに入れていたスマホがブッと振動し、メールを受け取った合図が聞こえた。その音に、ハッと顔を上げる。
 ——危ない、寝かけてた……!
 パンっと頬を叩きスマホを取り出す。
「あ、瀬野くんからだ」
 メールの送り主は瀬野くんだった。時計を確認すると、確かにもう部活が終わっている時間帯だ。
 通知をタップすれば、一瞬で瀬野くんとのトーク画面に飛ばされる。
 
『このショッピングモールに行きたいんだけど、原田こっちに来るのにどれくらいかかりそう?』

 文章の下には地図のURLが貼られている。確認すると、学校から一時間ほど離れた大型ショッピングモールだった。
 ——えっと、学校まで二時間以上かかるから単純計算すると……。

『三時間くらいかかるかも。お昼集合にしてもらえると助かる』

 流石に朝一はきつい。申し訳なく思いながらそう打ち込み返信すると、スマホを開いたままだったのか一瞬で既読が着いた。

『ならさ、一旦風丘駅で合流して一緒に行く? 原田このショッピングモール行ったことないんじゃない?』
『うん、行ったことないや。道に迷うかもだからそうしてもらえると嬉しい!』

 学校から少し離れた場所に大きなショッピングモールがあることは、クラスメイトの会話からなんとなく知っていた。でも、平日はバイトがあるから寄り道せずすぐに帰るし、休日もわざわざ電車で何時間もかけてまでそこに遊びに行こうとは思えなかった。
 一緒に行く友達とか、いなかったし……。

 地図と一緒に添付されていたショッピングモールのサイトを開くと、その敷地面積に見合う数多くの店名がずらりと並ぶ。メジャーな飲食店からおしゃれな服屋、綺麗な小物売り場に美味しそうなスイーツ——。
 写真を見ているうちに、行くのがさらに楽しみになってきた。カレンダーを確認すると土曜日までまだ四日もある。待ち遠しくて仕方がない。
 ——楽しみすぎて、どうしよう。
 よくよく考えると、友達とこうやって遊びに行くのは初めてだ。
 『友達と遊びに行く』という言葉を脳内で思い浮かべただけで嬉しくて、口角が上がっていくのを感じる。
 
 
『じゃあ、11時に風丘駅集合でいい?』
『うん、大丈夫』
 
 風丘駅は学校の最寄り駅だ。
 一度そこで集合し、そこから瀬野くんの案内でショッピングモールに向かう流れに決まった。なんでも、瀬野くんは何度かそのショッピングモールに行ったことがあるらしく、道は完璧らしい。
 11時集合なら朝9時くらいに家を出れば普通に間に合う。元々そのくらいの時間で家を出ようと思っていたので、こちらとしてはなんの問題もない。
 無事に予定が決まり安心していると、ピコンとまたしても通知が鳴り響く。

『原田は見たいところとかある? 誕プレ探し以外で、普通に行きたいところ』

「誕プレ探し以外で、普通に行きたいところかぁ……」
 少し考えたがあまり思いつかず、もう一度サイトを確認した。
 ——うーん。ここら辺のチェーン店は普段から行ってるし、かといってこの服屋はちょっとお高そうだし……。
 当日は誕プレ探しがメインだから他の店を見るあまり時間はないだろう。だから絶対行きたいところをピックアップしようと思ったのだが、気になるところはあれど『ここ!』とピンとくる場所は中々なかった。
  無心でスクロールしていると、とある文字を見つけてぴたりと指が止まる。
「ここ、行きたいかも」
 店名をコピーしてそのまま瀬野くんに送る。

『ショコラ・タンドルってところ、行ってみたい』
『了解! 他には?』
『今のところ大丈夫かも』
『おっけー。まぁ当日気になったら入ればいいしね』

 うんうんと頷いている猫のスタンプを送れば、一度そこで会話が止まる。メールを閉じようとすると、その直前にシュッと返事が画面上に現れた。


『デートプラン決まったな』


「ででで、デートッ!?」
 そういえば昨日そんな話をしていたが……まさかまだ擦ってくるとは思わず、昨日のように大きな声を出してしまう。
 俺の声が聞こえたのか、上にいるおばぁちゃんから「優輝、大丈夫かい?」という心配そうな声が降ってきた。咄嗟に「大丈夫」と返事をしたが、正直全く大丈夫じゃない。
 完全な不意打ちに、心臓がどくどくと暴れまわっていた。
 
「デート、デート……」

 そもそも、その場のノリのような言葉になぜこんなにドキドキするのか、それが俺にはわからなかった。
 ——そうだ、これはちょっとした遊びだから。真剣に受け止めるな、俺……!
 じんわりと熱を持っていく頬を冷ますように、手で軽く仰ぐ。

 既読をつけてしまったので震える手で『そうだね』とだけ返信し、そっとスマホの画面を閉じた。

 それと同時に部活帰りの高校生数人が「こんにちわー」と店に入ってきたので、俺は切り替えて「はーい、いらっしゃい」と声をかけながら席を立った。